142 サンタさん、イオナロードに苦戦する(4)
私の死にかけた発言を聞き、王子もセイエス先輩も顔色が悪くなる。
でも、ドラゴンという伝説の生物には興味があるのか、見慣れた頃にはアースドラゴンの体をペタペタ触っていた。
そしてやっぱり「王城に飾りたい」って、王族発言が飛び出した。
「こいつらは地上にしか居ないし、何度も命は懸けられないから王城には売れないよエルドラ王子。明日向かう【聖なる地】は安全だと思う。だよねリーダー?」
「う~ん、どうなんだろう・・・最後に調査隊が来たのは1年前だし、あれから誰も足を踏み入れてない。行ってみないと分からないぞアレス君」
最近のイオナロードや地上の様子を考えると、何処が安全で何処が危険なのか分からない状態だからなと、リーダーが難しい顔をして答えた。
「明日の調査には、念のためにサブチーフも同行することになっている。
前に王太子様が調査に来られた時は、王宮騎士団の剣士や魔術師が5人居たが、今回の護衛は1人だけだ。
ハンター協会としては、危険すぎて許可したくないところだが、銀級のサンタさんと中位・魔術師のアレス君が同行するから、特別に許可している」
王子とアースドラゴンを遠巻きにチラチラ見ているハンターたちを睨み、チーフが大きな溜息を吐きながら側に来て言った。
先日から王子様がゲートル支部に来たー!って大騒ぎになり、昨日は王子の友達の天使様2人がドラゴンを倒したー!って大騒動になっている。
……チーフもハンター協会も、王子の身に何かあれば責任を問われるだろうから、絶対に、絶対に迷惑だと思っているだろう。
「心配なら、2キロまで銀級パーティーを追加する?」
「いや、それは難しいサンタさん。どのパーティーもケガ人がいて、連携を取ることができない。
まあ、ドラゴンスレイヤーの2人と最速踏破者がいれば、無事に調査できるとは思うが、これまで以上に慎重になって欲しい。
私の残り少ない髪が、これ以上抜けないように頼むぞサンタさん」
「えっ、それ私の責任じゃないよねチーフ?」
出会った頃に比べたら確かに髪の毛が減っているけど、それは私のせいじゃないと思う。普通に年齢的なものだよね。
どうしていつも、何でもかんでも私に振ろうとするかなぁ・・・
今回は素材をハンター協会に売る気はないと言っておいたんだけど、流石にアースドラゴンは国やハンター協会本部に報告が必要らしく、偉い人が確認するまで勝手に解体することを禁じられてしまった。
仕方ないから、これから中級魔法で凍らせる予定だ。
チーフもサブチーフも、恨めしそうに私を見るのは止めて。売らんし!
1日休んで、やって来ました【聖なる地】。
凄く久し振りだけど大きく変わった所はないような気がする。
簡易宿泊所にしている古代遺跡の住居に、ちょっと豪華な家具類があったので、前回王太子様とホロル様が使ったのかもしれない。もちろん利用させてもらうよ。
「もうへとへとだよ。目的地まで5キロ以上もあるなんて、こんなに歩いたのは初めてだ。しかもアップダウンが激しいなんて。
でも、この光景を見るためだったら仕方ない。なんて素晴らしい所なんだ。凄い! 本当に来て良かった」
巨大な神殿の柱やピラミッド遺跡、上空を覆っている防御魔法、そして凛と立っているイオナの巨木。真昼の太陽の光を浴びて、風もないのにサワサワと葉を揺らしている。
王子は感動しながら瞳を輝かせ、凄いを連発する。
簡易宿泊所前に設置されていた椅子に座って、エルドラ王子はハアハア息を吐きながら水を飲んでいるけど、セイエス先輩は日頃から騎士学科で鍛えられているから、然程息も切れてない。
それでも、初めての古代都市で精神的に疲れを感じているようだ。
まあ、いつ側道から地底生物が出てくるか分からないから、護衛として気を張っていたんだろうな。
確かに途中で大蛇とは言えない大きさの蛇とか、何処の地上入り口から潜り込んだのか、明らかに地上生物だと思われる中型のウルフと遭遇して戦ったもんね。
ウルフは3頭も居たから、王子もセイエス先輩も応戦したんだよね。倒せなかったけど。
ぐるりと【聖なる地】を回って、お昼はホッパー商会が用意してくれた豪華なお弁当を食べた。
午後は例の大扉を開けに行く。
王子もセイエス先輩も魔力循環をしているから、たぶん扉の奥に進めるはず。
最速踏破者も全員魔力を放出できるようになっているけど、念のために半数がピラミッド遺跡で待機することになった。
超古代の扉の開閉技術や、美しい宝石や金や巨大な魔核に再び感動し、王子とセイエス先輩は扉の通り抜けに挑戦し、予想通り先に進むことができた。
私は懐かしい脅威の階段を見て、覚えた身体強化を使って登っていく。
王子は途中で何回か休憩し、やっと上の空間に到着した。
外に出る扉と先に進む扉の説明をして、今日はこのまま外に出る。
「な、なんだ! 本当にピラミッド遺跡の途中じゃないか」
「信じられません王子、古代人の英知はどれほどだったのでしょう」
王子に続いてセイエス先輩が、古代の技術に驚嘆している。
どうやらセイエス先輩は古代の技術に興味があったらしく、騎士じゃなかったら歴史学者に成りたかったと、ピラミッド遺跡から地上に下りながら話してくれた。
夜は寝転がって皆で星空を見上げ、流れ星を見付けてはしゃいだ。
この夜空を、超古代の人たちも見ていたんだと思うと不思議な気持ちになった。
「どうして文明は、ここまで衰退したんだろうって思うと悲しくなるけど、大きな天変地異には英知も技術も贖えなかったんだよね。
王子の職業は学者・気象だから、今の文明や残された貴重な魔術具や技術を守るため、危険を回避できるよう頑張って勉強してね」
「分かったよサンタ師匠。
本当は魔術師や技術者に憧れていたんだが、あの扉に書かれていた、選ばれし者よ、暦を読み天の声を聞いて知らしめよ。星の動きを観察し厄災から民を守れって文章・・・あれは、僕に課された使命かもしれない」
今回一緒に来れたことは幸運だったと呟き、真摯な声で自分の成すべきことが分かったと王子は付け加えた。
……うん、そう言って貰えるなら、一緒に来た甲斐があったよ。
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