139 サンタさん、イオナロードに苦戦する(1)
この国の王族は大丈夫だろうか?
エルドラ王子の申し出を断るために王宮へ行ったら、王太子がにっこりと笑って許可を出した。
……訳が分からない。盗賊が出るかもしれないし、古代都市ロルツは危険がいっぱいだというのに。
……まあ、王宮の馬車で行くらしいから、盗賊も襲うのを躊躇うかな・・・?
「サンタさんとアレス君が同行していれば、王宮騎士団10人分の働きをしてくれるだろう。王子の護衛も兼ねるので、今回は遠征費を1人金貨5枚出す。
側近候補のセイエスは騎士科の首席だから護衛として行かせる。バルトラはエルドラの身の回りの世話役だ。君たちがエルドラの世話をする必要はない。
宿泊先はホッパー商会に頼んだ。聖なる地へは王族調査隊として潜る」
王子の身の回りの世話は、王宮から侍女が1人とメイドが2人随行するらしい。
学生会副会長でもある4年のセイエス先輩だって、マリネラ侯爵家の三男だから、お世話するメイドさんが必要なんだよね。
ホッパーさんが気の毒過ぎて同情しちゃう。
「私が空間拡張バッグの素材を討伐しに行く時は、ハンターでもない者を危険なロードに連れて行くことはできません。
なので1週間の予定は、最初の3日間を私とアレス君と最速踏破者だけで潜り、1日休んで5日目と6日目が聖なる地の調査、そして7日目は休みです。
次の週も同じです。この条件が飲めない場合、空間拡張バッグの納期は夏季休暇以降の9月になります」
トレジャーハンターの仕事を簡単に考えてる様子の王太子に、正直腹が立つ。
自分が命懸けなのに、素人の、しかも王子や侯爵家の子息を守りながらなんて、危険すぎるし責任も持てない。
「そうだねサンタさん。
今のイオナロードは危険度が上がっているようだし、金級・銀級パーティーのケガ人も多いらしいから、以前のロードと同じには考えられないよね。
僕たちは遊びに行くわけでも、人生経験を積みに行くわけでもない。
仕事をしに行くんだから、王族の勝手で収入が減るのは死活問題だよね」
一緒に王太子に謁見したアレス君が、迷惑そうな視線を王太子に向けて言う。
アロー公爵家を継ぐわけでもないから、アレス君は政治的駆け引きとか忖度なんてしないし、私を基準に全てを考えていると思う・・・たぶん。
「いや、だから護衛として金貨5枚払うだろう」
王太子にしてみれば、金貨5枚は十分すぎる護衛料なのだろうけど、トレジャーハンターのことを、いや、私の実力を全く分かっていない。
「私、中位・魔術師資格を取ったので、8月に銀級ハンターになりました。
8月に私はイオナロードに潜り、最初の1週間で数台の魔術具を採掘し、その時の魔術具の1台は、学園長が白金貨10枚で購入しました。
次の1週間は、地上と地底生物を討伐して白金貨1枚を稼ぎました。
8歳の私は、名誉侯爵に相応しい生活をするため、自分で稼いで全てを整えねばならないのです」
私は領地を持っていないんだから税収がないんだよ!
私が、家族や従業員を養ってるの!
お金に困らない王族には分からないのかなぁ?
爵位だけやればいいって感じなの?
名誉侯爵として支給される手当は、離宮に残っていたメイドさんや事務員さん、護衛や庭師や調理人さんの給料でゼロなのよ?
母様の給金じゃ、2人の学費と4人分の食費でなくなっちゃうんだけど?
他の従業員の給料とか屋敷の維持費他、諸々のお金って月に白金貨3枚くらい最低でも必要なんだけど?
……8月に、ロードの権利収入を白金貨6枚もらって助かったよ。
「えっ? 2週間で白金貨11枚? そんなに稼ぐのか?」
王太子は私の稼ぎを聞いて、信じられないって顔をする。
まあ確かに、個人で私くらい稼げるトレジャーハンターは居ないとチーフが言っていたから、魔法使いという特例中の異例なんだろう。
「最低でも、月に白金貨3枚は必要なんです。
講師料として魔術師学部から白金貨1枚と、工学部と鑑定士学部から合わせて金貨4枚貰ってます。
アロー公爵からは、子爵手当てとして月に金貨5枚頂きます。
でも足りません。全然足らないんです。私は趣味や遊びでトレジャーハンターをしている訳ではありません」
ぷんぷん怒りながら、超不機嫌な顔で自分の事情をぶちまけた。
「そ、そうか・・・確かに領地のない伯爵でも、月に白金貨2枚で家族が生活し、給金等は別に白金貨2枚が必要だと聞いたことがある。
うむ、確かに、母ルクナの給金は金貨3枚。学費が精一杯だな。すまん」
王太子がバツの悪そうな顔でそう言って、側近のバリウスさんの顔を見る。
「だから申し上げたではありませんか。
ガイアスラー侯爵様は、どうやって生活されるのでしょうかと。
普通の貴族は、財産を親から受け継ぐんです。
領地の無い貴族は商売をするか、商業連合に投資するか、離宮のような派手な屋敷ではなく、慎ましい家で暮らしています。そして皆、大人です。
いくら天才でも、いくら大賢者でも、サンタさんは8歳ではありませんか! うちの娘と同じ歳なのに・・・命懸けで働かねばならないなんて」
そう言って側近のバリウスさんは、ポケットから取り出したハンカチで涙を拭き始めた。どうやら私と同じ歳の娘さんが居るらしい。
バリウスさんは以前から、我が家の生活費を心配してくれていたみたい。
でもねぇ、私は好きでトレジャーハンターをしているんだよね・・・それは言わないけどさ。
もしも私がトレジャーハンターじゃなくて、魔法使いじゃなかったら、大賢者だからって絶対に生活できなかったと思う。
……良かった。トレジャーハンターを選んで本当に良かった。
というやり取りが王宮であり、私の要望はすんなりと受け入れられ、エルドラ王子とセイエス先輩は4日間だけ聖なる地の調査をすることになった。
暇になるだろうから、私とアレス君が魔法の練習をしていた場所で、しっかり魔法の訓練をしてもらうことにしよう。
セイエス先輩も珍しい中位職の剣士だから、頑張って魔力循環を覚えて魔法使いになれるよう、課題を出しておこう。
冬期休暇に入って直ぐ、私たちは王都の町で必要な滞在用品を買った。
今回は妙な胸騒ぎがするけど、素材採取に行くしかない。
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