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138 サンタさん、講師の仕事をする(3)

 は~っ、講義の開始前から疲れた。

 結局50人居た受講希望者は、34人にまで減ってしまった。

 だけど、金貨16枚が私の懐に入ったので文句は言わないでおく。  


 受講できなかった16人の内5人は、3センチの魔核に充填できたので魔術師学部の講義を受講する。

 受講要項をよく読んでいなかったと申告した7人は、ある意味正直者かも。


「申し訳ないが、子供が講師だと知っていたら受講しなかった。私は魔術師の将来が心配だ」


 とか言い訳して、自ら受講を拒否した者が4人居たが、全員が元王宮魔術師団の出身だった。

 噂では、軍や警備隊に再編された元王宮魔術師団の者たちは、肉体労働や訓練を厭い、組織の規律を乱し問題になっているらしい。

 王太子からの極秘情報では、この怠け者たちを国境に送る予定だとか。


 ……こんな人たちが隣国と戦えるとは思えない。うちの国、大丈夫かなぁ?



 さあ講義を開始しようと前に出ると、キラキラした瞳でやる気満々な魔術師協会の人が、私が中位・魔術師試験を受けた時に披露した上空で雨を降らせる魔法を、ぜひ再現して欲しいとお願いしてきた。


「う~ん、分かりました。これからお見せする魔法は、中級魔法になります。

 魔法は魔術と違って魔力量が大事なので、10センチクラスのカラ魔核に魔力充填できるようにならないと、中級には進めません。

 エアーアタックを覚えたいなら、死ぬ気で魔力量を増やしてくださいね」


「えぇーっ! 中級は10センチ?」って、ショックを受けた者が半数。


 やれやれって息を吐いて、私はエアーアタックで10メートルほど上空に上がり、2メートルの水玉を上手く破裂させ雨を降らせて虹を作った。

 私の魔法を始めて見る者は、エアーアタックを使った時点で「えぇーっ!」と驚きの声を上げ、上空で止まって水玉を作ったら「2つを同時にだと!」と驚嘆し、雨を降らせたら絶句していた。


「なんということだ。これが魔法・・・」

「信じられない。これは夢か? 同時に技を使えるなんて・・・」

「魔術とは全く違うじゃないか!」

「詠唱は? 魔法陣はどうした? はあ?」 


 降りてきた私を大きな拍手で迎えてくれるのは、私の魔法を見たことがある者で、大多数は大きく目を見開き頭を抱えているか呆然としている。

 衝撃が大きかったようだけど、魔法と魔術の違いは分かってもらえたようだ。



 興奮と混乱の中、私はさっさとカリキュラムを進めていく。

 魔力循環は完璧だろうから、直ぐに魔力操作を教えていく。

 助手として魔術師学部の准教授や講師が参加しているので、見本を見せながら指導もバッチリだ。

 アレス君の講義を既に2回受講し、彼等は私の指導も1回受けている。


 今回は目的物を膝まで上げ、頭上でクルクル回す初歩の講義で、2回目はエアーシュートで石を飛ばす予定である。

 次の講義は来月だから、ちゃんと練習したら頭上クルクルはできるはずだ。

 ただ、今日の様子を見ていると、魔術の概念が強い人ほど苦戦しているようだ。

 イメージするという部分が理解できず、発する言葉と魔法の発動が一致しない。


 それでもこの場に居るのは、高位や中位(上)の魔術師の人たちだから、講義終了時間にはなんとか頭上クルクルを習得していた。

 途中、王太子が頭上クルクルを応用して、横回転を縦回転させたり、八の字回転なんかさせて自慢したので、負けず嫌いの魔術師たちが奮起した。

 大人気ないと思ったけど、まあ結果オーライよ。




 11月の後半には、鑑定士学部から依頼された高度文明紀後期文字の講義を開始した。

 どこから噂を聞きつけたのか、歴史学者の皆さんも出席し、ばんばん質問攻めにあった。

 学生に教える使命がある歴史学者は、鑑定士学部の皆さんよりも気合が入っていて、講義の回数が少なすぎると文句を言われた。


 歴史学者のターンキュウ教授から、各時代に生きていた守護霊様から、人々の暮らしや文化などを訊いて教えて欲しいと依頼があったけど、10歳になったら考えると答えておいた。

 正直そこまで手が回らない。私だって受けたい講義があるし、作りたい魔術具だっていっぱいある。



 学園生活で大きく変わったのは、私の胸に何故か講師バッジが3つもついていることと、発明家であることを示す銀バッジが追加されたことだ。

 当然、学生たちは私を学生扱いしなくなったし、既に工学部の卒業資格を得たらしいとの噂が広がり、女子は近寄ってこなくなった。


 昼休みには相変わらず4人で食事をして、放課後は一緒に魔法の練習をしたりする。兄さまも、今では魔力操作ができるようになっている。

 凄く不思議なことに、魔術師ではない者は、魔法は使えるけど魔術は使えない。だから魔法陣だって発動できない。


 推察するに魔術師という職業は、基本的には真似できないということだろう。



 そんなこんなで忙しく学生と講師の両方をこなしていたら、いつの間にか年末になっていた。

 幸か不幸か、工学部の卒業資格を得た私は試験が免除されているので、定期試験の勉強をする必要はなかったけど、講義の資料作成で徹夜した。


 商業連合で特許をとった空間拡張バッグ類は、2月から販売予定なので急いで素材となる地底生物の皮を用意しなくてはならない。

 ホッパー商会にも素材を発注しているけど、最近は大トカゲの素材や大蛇の素材が入手困難になっているらしい。


 久し振りに会ったホッパーさんによると、10月末にイオナロードの側道から地上へ出る扉が壊れて、凶暴な地上生物が侵入し大変なことになったらしい。

 偶然にも最速踏破者の仲間は休業期間中で、難を逃れていた。

 後日ハンター協会の依頼で地上生物の討伐に向かい、置いてきた光猫シリスの活躍で、なんとか大型生物を討伐し、危険な側道は完全封鎖されたとのこと。



 冬期休暇は僅か3週間しかないので、休暇に入ったら直ぐにゲートルの町に行く必要がある。

 11月に離宮に引っ越したから、シリスは王都で生活できる。

 今度はまあまあ広い庭もあるし、離宮の回りには壁だってちゃんとあるから、不用意にシリスに近付く者もいないだろう。たぶん。


「今回は、私も同行させてくれ」


 昼食時、突然王子が笑顔でそう言った。


 ……いや、それは無理。安全上無理だって。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話より新章スタートします。よろしくお願いいたします。 

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