136 サンタさん、講師の仕事をする(1)
新しい空間魔術具【移動部屋】の検証には、5日間必要だった。
誰かがずっと中に居る状態で検証を行う必要があったからだ。
学園が休日になる前夜、私とアレス君と兄さまとエルドラ王子の4人で、寝具を持ち込みお泊りして検証を手伝った。
もちろん魔術具の外では、王宮騎士団がずっと護衛してくれてた。
検証初日、私が学園から帰った後で、王様と王太子様が来園されたそうで、城に帰ってから王子の前で王太子様が素晴らしい魔術具だったと熱弁を振るったらしい。
悔しい思いをした王子が、メーナイ教授と学園長に手を回して、お泊り会が実現したってわけ。ハハハ。
私たちの検証の結果、8センチの魔核は2日間有効で、魔核の魔力が切れそうになると何処からかピーピーと警告音が聞こえてきて、外に出ると勝手に元の大きさに戻ってしまった。
余談だけど、カラになった魔核に私が魔力充填したら、部屋の広さがもう少し広くなってベッドが2つになった。
……う~ん、何でだろう・・・分からないことは深く考えたら負け。
検証終了3日後、学園長は【移動部屋】魔術具を学園の教師に披露して、予想通り歴史学者や建築学者たちが大騒ぎした。
私は自分が所有者だと公表してないし、学園に売る気だからノータッチ。
でも、各協会や商業連合、他の団体のお偉いさんに披露した時は、売ってくれと騒動になり、学園長より高額で買い取るからと揉めたらしい。
学生に披露した時は、我が家にも欲しいと高位貴族のお嬢様やお坊ちゃまが騒いでいたけど、その殆どは魔術具の学術的価値を理解していなかった。
医学部の学生が、有事の時にこれがあれば安全な野戦病院が簡単にできるのにと言っていたのを聞き、確かになぁって頷いて、いつか挑戦してみたいと思った。
ベッドや医療器具を事前に置いておけば、簡易診療所のできあがりだ。
……炎や水の攻撃にも耐え、物理的攻撃にも耐えることが証明されたから、王様に簡易病院という案を出したら、未知の素材を揃えてくれたりしないかなぁ・・・
10月になって直ぐ、私は魔術師学部の講師として学園の学生と教師全員の魔力量を、自分が作った魔術具で測定し記録した。
その後、魔術師学部の学生と教師に【魔力属性判別魔術具】で属性検査もして、全員の成長を記録することにした。
努力すれば魔力量は増えるし、属性だって増える可能性はあるもん。
10月の中旬、魔術師学部が正式に週2回【魔法】を講義に取り入れ始めた。
中位・魔術師の資格を取っている学生限定なんだけど、週2回の内1回はアレス君が講師として教鞭を執る。
今日は初回なので、こっそり様子を見に行く予定だ。
もしも誰かがアレス君を虐めたり難癖を付けたら、私がやっつけてやるんだ。
意気込んで様子を窺っていたけど、何故か先輩方はキラキラした瞳でアレス君を見て、真摯に説明を聞いていた。
よく見たら、一番前の席に中位・魔術師試験の時に会場に居た3人の先輩が座っていて、早く魔法を覚えたいのか積極的に質問までしていた。
どうやら心配なさそうだと安堵し、魔法使いが増える未来に期待する。
発明学科の講師としての仕事は、卒業課題である魔力量測定魔術具作成に取り組む先輩方に、いろいろアドバイスをすることが中心だ。
他には、新しい魔術具作りに挑戦している学生にアドバイスもしている。
つい口が滑って、ダイトンさんやショーニスさんのアドバイスをそのまま伝えることがあり、口調がオジサンみたいと学生に笑われてしまい、陰でおじさん少女と呼ばれている。
……こんなに可愛い少女なのに酷い! 私に守護霊がいるって学生や多くの教師は知らないから、【過去・輪廻】の能力じゃなく単なる天才だと多くが勘違いしている。
11月以降、暇になったから自分で新しい魔術具作りに挑戦し始めた。
だって一般教養の講義を免除されちゃったんだもん、ほぼ自由時間なんだよ。
何故か教授から学生まで見学に来て、皆でこっちの方がいいとか、そこはこうした方が見栄えがいいとか、ワイワイやりながら作るから楽しい。
私が現在挑戦しているのは金属を使って空間拡張ボックスを作ることで、丈夫で頑丈な金属が見当たらず苦戦している。
「あぁ、高度文明紀と同じ素材が欲しーい!」
「そうですよねサンタ講師。魔術具に携わる者にとって、永遠の課題です」
ツクルデ教授の助手を目指している5年生のキンデル先輩が、私が挑戦している空間拡張ボックス作りを手伝いながら同意する。
高度文明紀後期のエンジニアであるショーニスさんが、現在の素材では高度文明紀のような魔術具は作れないだろうって言ってる。
高度文明紀の魔術具は、薄い金属でも強度がある。そして錆びない。
現在の金属は薄いと強度が下がり、5年くらいで劣化していく。
『は~っ、過去の魔術具の金属を継ぎ接ぎしたら、性能が上がるかなぁ・・・』
『仕方ないぞサンタさん。技術が解明できても素材が無ければ過去の魔術具と同様の性能は望めない。
耐久性や加工技術で劣るなら、対応年数を始めから短く設定し、買い替えすることを念頭に販売するしかない』
私が口にした限界に、ショーニスさんが代替え案を考えて示してくれた。
「そうだね。1万年経っても使える魔術具じゃなくても、5年とか10年使える魔術具でも、皆の生活が便利になるなら無駄じゃないよね」
私はそう言って、キンデル先輩と一緒に作業を再開した。
11月、私は魔術師学部の講師として初めての講義を行う。
私の講義を受けることができるのは、5センチ以上のカラ魔核に充填できる魔力量持ちだと限定されている。
しかし、講義に参加している人数は50人を越えていた。
はて? 皆さん本当に5センチのカラ魔核に充填できるの?
エバル部長教授に視線を向けると、バツが悪そうに視線を逸らされてしまった。
受講者の多くは魔術師協会から来ているらしいけど、王宮騎士団や警備隊、軍に統合されてしまった旧王宮魔術師団や、その他の協会関係者の姿も見える。
「はじめまして。魔法の講師をするサンタです」
「なんだと、本当に子供じゃないか! 魔術師学部はこんな子供に教えを乞うつもりなのか?」
軍の制服を着ている者が、いきなり喧嘩を売ってきた。
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