135 空間魔法の未来(2)
想定を上回る【移動部屋】に、暫く皆は呆然としていたけど、再起動してからは外壁素材を調べたり強度を確認したりして、仕事をちゃんとしてくれた。
もう1台の魔術具に関しては、調べる気力が残っていなかったのと、大きな魔核が鑑定士学部に残っていなかったため、魔核購入後に行うと決まった。
「これは、建設学科の教授が見たら卒倒しそうだな」
「ええ、歴史学者だって卒倒しますよツクルデ教授。
我々鑑定士学部は、部屋の中の物を明日鑑定することにします。
これから王宮へ行きましょう。サンタさんの魔術具に関連することは、一蓮托生ですからねツクルデ教授」
何だこのグラスの輝きは! とか、この寝具の素材は何だ! とか、【移動部屋】の中の物を物色……いや、鑑定しようとしている部下たちを見て、メーナイ部長教授が頭を抱えながら言った。
興奮状態の准教授や講師たちと違い、これから起こり得る様々な面倒ごとを処理することになったメーナイ教授に、ちょっとだけ同情しちゃう。
ちょっと可哀そうなので、学園長への報告は私がすることにして、直ぐに呼びに行った。
当然のことながら学園長も、大層驚きはしたが「素晴らしい大発見だ!」と大喜びで、貴重な資料として学園が買い取ると宣言した。
3日間の鑑定や起動時間等の検証の後、各学部の教師や各協会や商業連合のトップを招待し、空間魔術の素晴らしさを知ってもらうため、学術会を開いて自慢するらしい。
自慢?って訊いたら、この魔術具だけで観覧料も取れるし、教師にも学生にも大きな学びとなるだろうから、学園所有にして見せびらかしたいのだと学園長がぶっちゃけた。
私とアレス君は、魔核の充填を頼まれた。
残念なことに、私たちは講師になってしまったから、どんなに大きな魔核を充填しても、1回金貨2枚しか貰えない。
……いや、金貨2枚は庶民には大金だ。金貨2枚有れば調理メイドさんを1人増やして、馬の飼葉の質が上げられる。
◇◇ 王太子 ◇◇
王の執務室で、大賢者であるサンタさんの待遇について話し合っていると、王立能力学園の教授が至急の案件で謁見を求めていると宰相が告げにきた。
なんだか嫌な予感がする。
もしやまた、身の程知らずな学生がサンタさんを虐めたのかもしれない。
息子のエルドラが、幼いサンタさんを平気で虐める女子学生にキレていたが、サンタさんがキレたら王都に炎の槍が降ってしまう。
そんなことは起こらないと信じているが、絶対という思い込みはよくない。
今回の虐めの件が教会の耳に入ったら、カラ魔核が入手困難になり、大賢者様が暮らす国として相応しいくないと判断されるかもしれない。
離宮くらいでは引き留められないのではないかと、今も王様と思案していたところだ。
いっそのこと10歳を待たずに直ぐにでも大賢者であると公表する方が、愚か者や身の程知らずを生みだす危険度が減り、安全ではないかというのが王である父上の意見だ。
「なんと、そんな素晴らしい魔術具をサンタさんが採掘したと?」
鑑定士学部の部長教授の説明を聞いた王様は、瞳を輝かせて興味を示された。
「はい王様。これまで鑑定したどの魔術具よりも高度な技術と技が使われています。また幸運にも、高度文明紀の生活が手に取るように分かります」
メーナイ部長教授は、是非実物を見ていただきたいと頭を下げる。
「学園長が購入をサンタさんに申し出ておられましたので、今回は学園の所有物となる予定です。あれが実用化されれば、遠出も快適に過ごせるでしょう。
まあ、今のところ復元は不可能ですが、いつの日にかサンタさんが作ってくれるかもしれません」
本日サンタさんを工学部の講師に任命しましたと、報告も兼ねてツクルデ部長教授が期待に胸を膨らませている。
王様は珍しい魔術具が好きで、魔力学会の時に購入した【簡易空間魔術具】を時々起動させ、あの空間の中で仮眠するとぐっすり眠れると仰っている。
今回は学園長である叔父上が先に購入を申し出たようなので、学術的に重要な物であるなら、購入を諦めてくださると期待しよう。
「なんだこれは! これが1万年前の魔術具だと言うのか? 寝具も食器も絨毯までもが、現在の技術では再現できない代物だ。
先人たちは、この魔術具で旅を快適に過ごしていたのだろうか? それとも、突然の来客や予備室として使っていたのだろうか・・・素晴らしい技術だ!」
あぁ、王様の瞳が欲しいと訴えている。私だって欲しい。
僅か2メートル四方の物体が、外見は倍の4メートルになったとしても、魔術具の中の空間は10メートル以上ある。
空間魔法というのは、無限の可能性を秘めているようだ。
「できるだけ早く、サンタさんとアレス君以外の者にも【空間属性】を発現して欲しいものだ。いや、私はどうなんだろうか? もしや私にも可能性はあるんじゃないか?」
つい本音と願望が、私の口から溢れ出てしまった。
このまま魔術具を起動させてはおけないので、鑑定士学部の教師たちが、夕日が沈みかけたグラウンドに置かれた魔術具を、元の大きさへと戻していく。
……もっと見ていたかった。できることなら泊まってみたい。
「しかし、この大きさの、いったい何処にベッドや応接セットなどの大きな家具が治まっているのだ?
しかも、家具の配置も変わることなく設置されているのだから、空間魔法だけではない他の技術や魔術も含まれているのだろう。
う~ん、欲しい。買えないのなら空間魔法を学んで己で作るしかないな」
名残惜しそうに魔術具を触っている王様が、私と同じ思考に辿り着いてしまったようだ。
……元々【空間】属性を持っていなかったアレス君に発現したらしいから、高位・魔術師の私や王様にだって可能性はあるんじゃないか?
「王様、本日発明学科と鑑定士学部がサンタさんと協議し、サンタさんが作る空間拡張バッグやウエストポーチを、特許を取って売り出すと決定しました。
販売されるバッグを購入されては如何ですか? 凄く便利で重宝しますよ」
ツクルデ教授が上手く王様の意識を逸らしてくれた。
「最初の製品は、私と王様が予約しておく。段取りを頼むぞツクルデ教授」
「了解しました王太子様」
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