134 空間魔法の未来(1)
一度に2つの見たこともない魔術具を見せられた研究者たちは、目を白黒させながら何の魔術具だろうかと思案を開始する。
魔術具に書かれている文字から推察すると、未発見の魔術具は錬金用機械と書いてあるから、金属の加工に使われる魔術具だろうと鑑定された。
もう一つの空間魔術具は、高度文明紀前期の文字で【移動部屋】と書いてあるんだけど、このメンバーでは文字が解読できなかった。
「私の守護霊様によると、此処には【移動部屋】と書いてあるらしいわ。
高度文明紀後期の文字は解読できるようになったけど、前期はまだ勉強中なんだ私」
「なんだって! 高度文明紀後期の文字を解読できるようになったのかサンタさん。そんな大事なことは早く教えてくださいよ」
鑑定士学部の部長教授でもあるメーナイ教授51歳が、恨めしそうな視線を私に向けて文句を言う。
「そうですよ、高度文明紀の文字が読めれば、鑑定できなかった多くの魔術具が鑑定できるようになるんです。
何に使う物なのかが分かれば、もっと正確な鑑定ができるんですよサンタさん」
副部長教授のシリテーナ教授49歳が、口を尖らせて文句を言う。
……ああ、そう言えば、第一回調査団の皆から、高度文明紀の文字が解読できたら教えてくれって頼まれてた気がする。
「あれ、でも歴史学者チームに簡易文字表を売ったと思うんだけど?」
「何を言っているんですかサンタさん。あれは歴史学者のターンキュウ教授が個人で買って、学生に文字の読みだけ教えているんです。読みと意味では違うじゃないですか!」
そんなに唾を飛ばしながら怒らなくてもいいじゃないメーナイ教授。
「は~っ、私って学ぶために入学したのに、古代文明紀の文字の講師までやらなきゃいけないのかなぁ・・・まあ、約束した気もするけど・・・」
「ぜひに!」って、鑑定士学部の皆さんが声を揃えて手を合わせた。
「う~ん、10月は学生や教師に魔力量測定させたり、魔術師学部の講師の仕事が始まるから、11月辺りから時間を調節します。今日はこの2つの魔術具の起動を優先させてください」
学生じゃなくて、講師として教えることがどんどん増えていく未来を思い、思わず溜息が出ちゃった。
『諦めた方がいいわサンタさん。大賢者の宿命みたいなものよ。分からないことがあれば、私たちが力になるから頑張って』
パトリシアさんは今日も優しいけど、頑張るしかないんだ・・・とほほ。
今回の空間魔術具【移動部屋】は、魔核が埋め込まれているのではなく、魔核をセットして起動させるタイプだった。
ただ問題はセットする魔核の大きさで、どう見ても8センチクラスの魔核を嵌め込むようになっている。
しかも、元々の大きさが縦横2メートルと大きい。
「これを部屋の中で起動させるのは危険かもしれません。魔力学会の時の空間魔術具は、結構大きくなりましたよね」
「確かにそうだなシリテーナ教授。移動部屋・・・部屋ってくらいだから、屋外で検証した方がいいだろう」
メーナイ部長教授が賛同したので、鑑定士学部に現在ある一番大きな8センチ級の最後の魔核を持って、全員で北エリアにあるグラウンドへと移動する。
グラウンドの中央に到着すると、メーナイ教授が早速魔核をセットするけど、スイッチらしきモノが見当たらない。
全員で起動スイッチを探したら、4つの角の其々中央に窪みがあった。
「もしかしたら、4箇所を同時に押すのかなぁ・・・」
各窪みを押したり引いたり色々してみたけで、うんともすんとも変化しないので、思ったことを口にしてみた。
「なんでもいいからやってみよう」と、魔術具が専門のツクルデ教授が、ススッと前に出てきて角の窪みの前を陣取った。
「検証は鑑定士学部にお任せくださいツクルデ教授」
「ケチケチせんでもいいじゃろうメーナイ教授。サンタさんは我が学部の講師じゃ」
何故かツクルデ教授が胸を張って、私の所属を主張する。
「おや、いつの間に工学部の講師になったんですかサンタさん?」
ん?って目を細めたメーナイ教授が、私の胸元の講師バッジを見て眉を寄せる。
「う~ん、つい先程かなメーナイ教授」
「それなら我が学部でも、教師と学生に高度文明紀の文字を教えて貰うから、講師バッジを出してもいいな。
ところでサンタさん、高度文明紀の文字の解読は、前に言ってた星の再生紀の守護霊様から教わったのかい?」
「ううん違うよ。これは極秘事項だから誰にも言わないでね。新しく加わった高度文明紀後期にエンジニアをしていたショーニスさんからだよ」
「なんだって!」
グラウンドの端まで聞こえるんじゃないかって大きな声で、全員が叫んだ。
そして、キラキラギラギラした視線を私に向けて、今の話は絶対に他の学部の教授や学生にはしないでくださいねと、ツクルデ教授とメーナイ教授に念押しされてしまった。
結局、4人で同時に窪みを押したら、【移動部屋】なる魔術具からガコンと音がして変形が始まりドアが現れた。
最終的には2メートル四方のものが、4メートル四方に変化したんだけど、中に入った全員が絶句した。
「なんでベッドや応接セットがあるの? 高級ホテル並みの広さじゃない」
私の魔核付き杖が照らした先には、カラの空間ではなく家具や寝具までがセットされ、直ぐにでも使えそうな豪華な部屋があった。
「ああ、サイドボードには食器やグラスまで入っとるぞ」
ツクルデ教授も信じられないって顔をして、部屋の中のサイドボードに収納されていた食器を触っている。
「これは夢か?」
「いいえメーナイ教授、これは現実です。でも、夢と言われた方が納得できます。これは、この魔術具は、歴史を揺るがす大発見だと思います」
メーナイ教授とシリテーナ教授は、ベッドの寝具を触り、床に敷かれた少し色あせた深緑色の絨毯を足で踏みながら、夢か現実かを語り合っている。
「サンタさん、この魔術具は王様案件だな。できれば学園で購入したいところだが、これを研究して再現するにはサンタさんが持つ【空間魔力】が必要なんじゃろう? どう考えても負担が大きい」
「そ、そう・・・だねツクルデ教授。折角だから、強度だけでも検証して欲しいかなハハハ」
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