133 サンタさん、発明家登録する(3)
やって来ました鑑定士学部。
工学部には発明学科と建設学科があるけど、鑑定士学部は単独だ。
鑑定士学部は、これまで発見されている魔術具は勿論のこと、絵画や宝石等の高級品の鑑定ができる人を育成している学部である。
私が知っているのはハンター協会の鑑定士だけど、職業選別で鑑定を授かった者は、王立能力学園に入って専門分野を自分で選ぶらしい。
商業連合で働いている鑑定士は高位職が4人と中位職が6人以上居て、各専門分野の鑑定を任されているようだった。
魔術具の鑑定は難しく、発明学科の基礎や魔法陣も学ぶ必要があるから、5年間の一般カリキュラム終了後、2年以上の専門実習を受けねばならない。
だから魔術具の鑑定士を目指す者は、6年目から発明や鍛冶クラス・魔術師学部の研究室で一緒に勉強する。
「ああ、そうそう、サンタさんは既に卒業扱いだから、一般教養の講義は受講免除にすると学園長が言っていたぞ。
その代わり、好きな学部のどの講義を受講してもいいらしい。
大賢者だと名乗る10歳から、教えられる知識があれば教壇に立ってもらうのが目的のようだが、わしとしてはサンタさんは工学部の講師で頑張って欲しい」
鑑定士学部の廊下を進みながら、ツクルデ教授がとんでもないことをサラリと言った。
この学園は、教授も学園長も絶対におかしいと思う。
私はまだ8歳。知らないことだらけなのに学ばせてくれない。
『サンタや、わしら6人の守護霊が、各学部の講義を受けて教えてやるから心配せんでもええぞ』
『せやでサンタさん。サーク爺の言う通りや。サーク爺は魔術師学部、俺は地質や地理的な講義を受けて教えたる』
サーク爺の提案を聞いた開拓者であり地質学者だったトキニさんが、自分も現代の知識を学びたいし、自分の知識にプラスして私に教え直すと言ってくれる。
『そうね。それなら私は医学部の薬科と気象・天文の講義を受けるわ』
冒険者で天文学や毒に詳しいパトリシアさんも、講義を受けたいと積極的だ。
『私は学食でメニュー研究をして、医学部の看護学科で栄養の勉強をしたいわね』
王宮料理人だったマーガレットさんも、現代の食材や調理方法、病人食について学びたいと乗り気だ。
『わしは当然、発明学科だな。建築にも興味があるぞ』
『ダイトンさんが発明学科と建築ならなら、私は鍛冶と鑑定と土木を学び、高度文明紀と現代の違いをサンタさんに教えよう』
天才発明家のダイトンさんに続き、高度文明紀後期にエンジニアだったショーニスさんも、ノリノリでサーク爺の提案を受け入れた。
『そんなに沢山は覚えられないよ。私の脳は1つしかないんだからね!』
このままじゃ、また睡眠学習とかが始まりそうで怖いんだけど?
10歳までに、大賢者に相応しい知識を身に付けさせるとかって頑張らないで!
◆◆◆◆◆
「サンタさん、ツクルデ教授に脅されて特許料を20%も学部に渡すんだって?
鑑定士学部でも特許申請できるし、新しい魔術具を発見したり開発したら、直ぐに声を掛けて欲しい。絶対サンタさんに損はさせないから」
【聖なる地】の第一回調査団にも参加していた高位・鑑定士のメーナイ教授が、到着後直ぐ私の顔を見るなりそう言った。
そして、ツクルデ教授が空間拡張ウエストポーチを度々自慢しに来るらしく、同じ北エリアの教授や准教授が、羨まし過ぎて悔しい思いをしていると愚痴も聞かされた。
……ツクルデ教授ったら、あちらこちらで自慢してたのね。
「そうなんだ。空間拡張バッグって、特許申請できるのかなぁ?
できるんなら幾つか作って売ることも可能なんだけど・・・ほら、この年齢で子爵家当主になっちゃったから、貴族としての生活を維持するための資金が必要なんだよね」
「なんですって!」
集まってきた鑑定士学部の教授や准教授や講師が、ギラギラした瞳を私に向け、手を合わせて「欲しいです!」と言って拝み始めた。
「特許申請したら、商業連合が張り切って高位貴族に販売したがるだろうな。間違いなくヒット商品に、いや、大ヒット商品になるだろうからな」
商業連合の会長と仲良しなツクルデ教授が、ニヤニヤしながら言う。
……でもねぇ、今現在の性能では、4センチ以上の魔核充填できる人にしか売れないんだけど。
『サンタや、工学部の講師になったんなら鑑定士学部との連携も必要じゃろう。
あの顔を見てみい、涙を流さんばかりに感動しとるぞ。
特許料を渡す必要はないが、売り上げの20%を発明学科と鑑定士学部で其々10%ずつ分けて渡せば、喜んで素材も集めてくれるじゃろう』
『そうね。この世にないヒット予想商品を販売するなら、バックに王立能力学園の2つの学部が絡んでいた方が、横槍を入れられる心配は減るでしょうね』
王宮料理人だったマーガレットさんは、王族や高位貴族の汚い遣り方を良く知っているから、自分の身を守る護衛料だと思えばいいわって付け加えた。
「特許を取って販売することになったら、純利益の2割を、発明学科と鑑定士学部に仲良く1割ずつ分けて寄付するのもアリかもね。
もちろんタダじゃないわよ。製作者が私であると分からないように守ってくれるのは当然だし、寄付するのは2年間のみという契約書にサインが必要ね」
「なんだって!」と、再び全員の声が揃った。
鑑定士学部では、私の異能振りをメーナイ教授から度々聞かされていたらしく、大人のような口調で話しても交渉しても誰も不快な顔をしないし、寧ろ喜んでいる気がする。
そこから素材や値段設定をどうするかとか、2年間は他国には販売しないなんて議論を、凄く嬉しそうに勝手に始めたので、私はにっこり笑ってストップをかけた。
「まだ特許申請もしていないことで議論するのは止めて、先日ゲートルの町で採掘した魔術具の鑑定と検証をしてください。
有用であれば王立能力学園に販売することもできますが、値段が折り合わなければ各協会にも売るし、競売にかける可能性もあります。
私、トレジャーハンターですから。はいこれ、未発見の魔術具と新しい空間魔術具ですよ」
「未発見の魔術具と空間魔術具だと!」
私が取り出した2つの魔術具を見て、ツクルデ教授を含む全員が叫んだ。
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