132 サンタさん、発明家登録する(2)
私が出した卒業資格証と身分証明書をまじまじと見た会長は、本当に?って視線をツクルデ教授に向ける。
「サンタさんは天才じゃ。今回は我が工学部も特許権の2割を登録する。
さあ、ぼーっとしとらんで、早く申請書を書かせてくれ。そうそう、サンタさんの発明家登録も頼むぞ」
うきうきと嬉しそうなツクルデ教授は、そう言って私が作った魔術具と、教授が描いた設計図を取り出した。
「魔力量測定魔術具ですか? 前に魔術師協会が魔力属性判別魔術具を魔力学会の時に展示していましたが、あれとは違う機能なのでしょうか?」
随分と小さい魔術具ですねぇと言いながら、魔力学会の時の話を持ち出した。
さすが商業連合の会長だ。魔力学会にも行って私の魔術具を見たんだ。
「あれは私の魔術具なんです。あの魔術具を元に、魔術師じゃなくても魔力を持っているかどうかが分かる、新型の魔術具を作ってみました」
私はそう言って、念のために持ち歩いている魔力属性判別魔術具をポンと取り出してみせた。
「な、な、何ですか今のは! はあ? もしや教授が私に自慢しながら見せた空間拡張バッグですか? 天才魔術師が作ってくれたと言っていたあの?」
「そうじゃ。サンタさんの制服をよく見ろ。魔術師学部の講師バッジがついとるじゃろう。王都で噂の天才魔術師少女とはサンタさんのことじゃ」
……なんてことなの! 誰が噂をバラ撒いているのかと思えば、此処にも犯人が居たわ。
30分後、商業連合で働く魔術師や鑑定士や高位職持ちがやって来て、私が作った魔術具の検証という名目の、魔力量測定会が始まった。
会長自身も【高位・学者・経済】持ちで、友人の魔術師から魔力循環を習って、クズ魔核に魔力充填していたというから驚きだ。
……う~ん、入学試験の面接の時と同じ光景だ。書類はまだかなぁ・・・
製造と販売を王立能力学園工学部が独占して行うと聞いた会長が、他国への販売権利だけでも商業連合に譲って欲しいと言い、教授とあれこれ議論した結果、他国に販売する時は10%の手数料を取ることで合意した。
私が7%で工学部が3%である。ここは妥協できない場面だったからしっかり要求したよ。我が家は貧乏なんだから。
気付けばお昼前、急いで特許申請と発明家登録を済ませて、私だけ先に学園に戻った。
ツクルデ教授は、魔術具を作る素材の発注とか売値の相談など、まだまだ話し合う必要があるからと言って残った。
卒業予定の5年生は8人居るから、予備も含めて急ぎで素材を発注するそうだ。
学園に戻ると既に昼休みで、急いで学食へと向かう。
昨日の今日だから、私が学食に入るとざわざわした喧騒が一瞬で静まった。
なんだか入り難い雰囲気だけど、私を見付けたアレス君が「ここだよ」って声を出して手を振ったから、私も笑顔で手を振り返した。
通路を半分進んだ頃には、再び賑やかな昼食タイムに戻っていた。
……私が通ると皆が慌てて避ける姿が可笑しくて、つい笑っちゃった。
昼食後は学園長からの呼び出しで、またもや講義を欠席することになった。
私って学生よね? 確かに講師もやるって言ったけどさ。
「昨日は本当にすまなかったな。以後、講師に対する暴言や暴力行為を起こさないと、犯人の8人には誓約書を書かせた。
本来なら停学か退学だが・・・まあ入学間もないことを考慮し、厳重注意のうえ学内清掃の罰を与えようと考えておるが、どうじゃろうか?」
「王太子様が親に通告文を出すそうですから、十分な痛手になると思います。
本当は新しい制服を弁償して欲しかったのですが、学園が小さいサイズの制服の予備を用意してくれるなら、今後同様のことがあってもなんとかなります」
ポタージュスープがね、洗ったけどちょっと染みになってるんだよねって、学園長にスカートを見せて、は~っと大きな溜息を吐いておく。
淑女がスカートを見せるなんて……とか、8歳の少女は考えたりしない。
火傷させられて、スカートを自分で新調するなんて嫌だもん。
「もしかして、昨夜あの子たちの親に泣きつかれました?
噂では、私を突き飛ばしたのは侯爵家の娘で、他の子は伯爵家の子だったそうですね。
なんなら私も母親を連れてきて、名誉侯爵である娘に火傷を負わせ暴言まで吐くなんて、許されると思っているのですかって、文句を言わせましょうか?」
「いや、本当に申し訳ない。スカートは私が直ぐに新調しよう。
ふう・・・サンタさんには貴族的・政治的な駆け引きなど通用しないと王太子が言っていたが、確かに、大賢者殿を欺くことなどできないな」
学園長とそんなやりとりがあった僅か10日後、新しいスカートが離宮の方に届けられた。
同じく10日後、商業連合から正式な発明家として登録されたとの知らせがツクルデ教授に届き、何故か、本当に何故か、工学部の色であるアメジストの石が中央に嵌め込まれた金の講師バッジを、ニコニコと上機嫌の教授から渡された。
……はて?
「発明家登録されたら、商業連合から届いた銀バッジを必ずつけておく必要がある。この発明家の証となる銀バッジをしていると、ホテルや馬車の料金が割引になったりするぞ。
それと発明学科の学生は、以後サンタさんを講師と呼ぶことになる。
じゃから、学生の指導も時々してくれると助かる」
前置きにお得情報を話していたけど、この講師バッジは学生の指導を頼むためなんだ。
まあ、守護霊のダイトンさんとショーニスさんは喜ぶだろうな。
『絶対に引き受けてくれサンタさん』と、守護霊2人の声が揃った。
ずっと何か作りたいって言ってたもんね。
マーガレットさんの料理やお菓子は、いつでも作ることができるけど、魔術具は素材や製作場所や工具等が無いと作ることができない。
折角の知識が宝の持ち腐れになったら申し訳ないから、引き受けてみよう。
「まあいいけど、魔術師学部の講師料は1ヶ月白金貨1枚なんだけど、工学部はいくら? まさかタダじゃないよね?
あっ、私この前ゲートルの町のイオナロードで、いくつか魔術具を採掘したんだった。未発見のものもあるよ」
「なんじゃと! 何故それを早く言わん! 直ぐ隣の鑑定士学部へ行くぞ」
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