131 サンタさん、発明家登録する(1)
何が腹が立つって、昼食が食べられなかったことよ。
足とスカートと靴が残念なことになったので、私は渋々中央エリアにある保健室に行って、足に負った軽い火傷の手当をしてもらった。
予備のスカートを借りてみたけど大き過ぎてサイズが合わず、自分の私服に着替えて靴も履き替えた。
着替え終わった頃、話を聞いたらしい学園長が息を切らしながらやって来た。
私の足のふくらはぎの包帯を見て青い顔をした学園長は、「大丈夫ですかサンタさん?」と声を掛けて、看護師から様子を聞く。
「ちょっと赤くなってるけど、大丈夫です。制服と靴が使えないので、今日は帰ってもいいですか? 欠席になりますか?」
「いや、欠席にはしないよ。嫌な思いをさせて本当に申し訳なかった。
あ、あのー・・・空から炎の槍を降らしたりってことは・・・」
「ある訳ないでしょう! 学園長は私を何だと思ってるんですか?
こんな可愛い8歳の少女を、魔王みたいに言わないでください。ぷんぷん」
てな遣り取りがあって、私は学園長の馬車で家まで送ってもらった。
家に帰ってメイドのメリーさんに事情を話したら、「大賢者様に対する無礼、万死に値します! 許すまじ」って、私以上に怒りを爆発させていた。
でも、アレス君がきっちりと脅し、王子の側近候補も頑張ってくれたから、今回は大目にみることにするよと伝え、一緒にスカートと靴を洗った。
「サンタさん、魔術師学部のエバル教授と工学部のツクルデ教授が、専門総合学部と国務学部に殴り込みを……いや、責任追及に乗り込んだみたいだよ。
王子は今回の件に関わった女子全員に、王城で行われるパーティーや式典への参加を禁止し、卒業までサンタさんと王子と僕に声を掛けたら停学処分にすると、王太子様から親に通告文を出して貰うって」
学園から帰ってきたアレス君が、今日の午後の様子を教えてくれる。
私が工学部でも虐めに遭っていたと、昼食に遅れてきた側近候補のイエタテ先輩から聞いた王子は、フフフと黒く微笑んで、午後の講義を休んで王宮に帰ったらしい。
「王子の行動は不快を示したってことになるらしく、午後の西エリア(国務学部・気象・天文学部)の講義は、皆が青い顔をしていたね。
特に食堂でやらかした女子3人が、講義の途中で学園長から呼び出されたから、犯人が誰なのか早々に突き止めたみたいだ」
アレス君と一緒に帰ってきた兄さまが、西エリアの様子を教えてくれた。
「学生ではなく講師に対する暴力行為は、校則によると停学または退学らしい。
講師バッジを知らなかったと弁明したようだけど、入学式でも各学部でも担任が教えているから言い訳は通用しないと、学園長じゃなくて2人の部長教授が許さなかったそうだ」
放課後エバル教授から話を聞いたアレス君が、追加情報を出してきた。
「正式な処分はサンタが学園に登校し、学園長と話し合って決めることになるだろうって、僕と同じ西エリアの側近候補である4年のセイエス先輩が教えてくれた。
セイエス先輩は騎士学科の首席で、学生会副会長も兼任されている。今回の件は学生会でも問題視するらしいよ」
兄さまはそう言って、兄なのに何もできないのが悔しいと拳を握った。
東エリアは医学部5年のシンカー先輩が側近候補だけど、今年の1年生は例年になく頭に花が咲いている女子が多いと頭を悩ませているらしい。
サンタを虐める可能性があると2年や3年の女子から報告を受けていたけど、まさか講師バッジをつけている方を、本当に虐めるとは思わなかったんですと、上級生の女子は言っていたそうだ。
「でもね、シンカー先輩曰く、心の内ではライバルが減ってほくそ笑んでいるはずだって。故意に講師バッジのことを教えず、虐めも止めなかったんだろうって。女子って怖いよね」
兄さまはそう言って、王子や私やアレス君を守るために、情報収集を頑張らなきゃいけないと自分に活を入れている。
私やアレス君と違って中級学校を卒業した兄さまは、団体生活に慣れている分、団体心理とか団体行動の恐ろしさ、情報の大切さを学んでいる。
残念ながら野生児の私には、恋愛だ婚約だと騒ぐ女子心理は理解できない。
翌日、講義の前にツクルデ教授から呼び出され、一緒に商業連合に行くことになった。今日の午前に特許申請の予約を入れてあるらしい。
講義は受けなくていいのかと訊いたら、今更サンタさんには必要ないでしょうと言われたけど、私にも学ぶ権利はあると思う。
商業連合は中級地区の南に在り、王都でも有名な高級商店が軒を並べる一等地に本部が在った。
ハンター協会より高い5階建ての派手な造りで、倉庫が3棟と広い馬車置き場まであった。
ハンター協会と違って、人の出入りも多く皆の服装も華やかで活気がある。
……ああ、こういう雰囲気好きかも。お金は大事だし、商売って面白そうだよね。
「お待たせしましたツクルデ教授。本日は新しい魔術具のご登録だとか」
商業連合の豪華な応接室に通され、会長が直々に書類を持ってやって来た。
決して華美じゃないけど、間違いなく最高級の生地でオーダーしたと分かる服装の、50歳くらいの会長が教授に笑顔で話し掛けた。
「そうなんじゃ。ここに居る新人発明家が作ったんじゃが、恐らく職業選別魔術具に次ぐ大発明になるじゃろう」
「ここに居る新人発明家ですか?」と、会長は部屋の中を見回し、首を捻りながら私を見た。
予想通りの反応ありがとうございます。ツクルデ教授が特別なだけで、世間一般の反応はこれが普通だよね。
もしかしたら、孫を連れてきたと勘違いされる可能性だってある。
「はじめまして。先日王立能力学園工学部、発明学科の卒業資格をいただき、ツクルデ教授から発明家登録を勧められたサンタナリア・ハーシテ・ファイトアロ子爵です。本日は初めての特許申請となります」
一応立ち上がり、洗濯をした制服姿できちんと挨拶をする。制服を着てるから、王立能力学園の学生には見えるよね?
「発明学科を卒業? えっ? 子爵?」
これも至極当然の反応。8歳で王立能力学園の卒業資格を得た学生なんて居ないし、8歳の子爵もほぼ居ない。
面倒なので、卒業資格証と身分証明書を鞄から取り出しテーブルの上に置く。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。