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130 サンタさん、虐めに遭う

 う~ん、これは兄さまが心配していた王子の婚約者を狙う女子から、妬まれて虐められるって感じのアレかな?

 アレス君のことは予想してなかったけど、確かに公爵家子息だから、この人たちにとってアレス君も理想の婚約者候補なんだ。


「そもそも子爵家程度では、公爵家のご子息や、ましてや王子様と一緒に行動することが不敬になるって思わないのかしら?

 どうせ領地も与えられないお情けの子爵でしょう? もしかして、どこぞの伯爵の私生児かしら? 本当に卑しいこと」


 如何にも高位貴族令嬢でございますって感じの女子は、青色の専門総合学部のバッジをつけいている。

 クルクルとキレイに巻かれた金髪に、派手な赤いリボンを付け、睨み付ける視線は地底生物のように獰猛そうだ。


 ……学友なのに身分ってそんなに大事? 私って卑しく見えてるの?


「ちょっとアナタ、何か言いなさいよ! 子供のくせに本当に生意気ね」


 今度はクルクル髪リボンの取り巻きらしい女子が、ずいっと前に出てきて文句を言う。

 この子はピンクのリボンがついたカチューシャをして、お化粧までしている。

 他にも3人が其々違う色のリボンを髪に飾っており、私は即座にリボン5人娘と命名した。 


 中央エリアの学食や売店に向かう北エリアの学生たちの視線を浴びながら、どうしたものかと考え、取り敢えず言われた内容をメモすることにした。


「えっと、兄が側近候補だからと、王子様やアンタレス様に擦り寄らないでが最初で、次は、子爵家程度では、アレス君や王子様と一緒に行動することが不敬になるだったわね。

 そして、領地も与えられないお情けの子爵か、どこぞの伯爵の私生児で、本当に卑しいっと。

 最後が子供のくせに本当に生意気・・・ふんふん、ちゃんと報告しなきゃね。

 ああアナタたち、名前を言ってくれる? 身分は必要ないわ」


 私はメモ帳に書き終わって顔を上げ、講師として名前を訊いた。


「な、な、何ですって! そのメモを寄越しなさい! アナタなんかに名乗る必要などないわ!」


 まさかと思ったけどクルクル赤リボンの子が、大声で叫んで私をドンと突き飛ばした。

 私は「キャーッ!」って叫びながら、大袈裟に倒れてみる。

 ちょうど視線の端に、王子の側近候補である工学部建設学科3年の先輩が見えたから。


「何をしている! 私は風紀部の役員だ。君は無抵抗の女子を、しかも講師を突き飛ばしたな。この目ではっきり見たぞ。

 言い逃れはできない。魔術師学部の講師への暴力、学部長呼び出しになるから全員覚悟しておけ! これから風紀部室に来い」


 側近候補のイエタテ先輩が、滅茶苦茶怖い顔をしてクルクル赤リボンの子を睨み付け、残りの4人も含めて叱咤する。

 そして私に手を差し伸べ、立ち上がらせてくれた。


「この先輩は、ま、まさか側近候補のイエタテ様?」と、青いリボンの子が泣きそうな声で呟く。


「おい、学生扱いされてないって噂は本当だったんだ」

「女って怖いよな。あの講師バッジが見えないはずはないんだけど」

「ほんと小さいな。噂じゃ魔術具作りの天才らしいぞ」

「専門総合学部の学生が、工学部に来て後輩を虐めるとは……許せんな」


 通りすがりの工学部の皆さんが、ひそひそとではなく、意外と大きな声で意見を言い合っている。


「主席入学者であり、工学部の期待の星に対する暴言と暴力、直ぐツクルデ教授に知らせて、学部から正式に抗議しよう」


 ツクルデ教授の研究室のキンデル先輩5年生が、許すまじって拳を握って物騒なことを言う。

 彼は私が魔力量測定魔術具を作ったと知っているし、卒業後も学園に残ってツクルデ教授の助手をするって言ってたから、私にとても好意的だ。


「えっ? 講師? そ、そんなこと・・・聞いてないわ」


 入学間もない1年生だからか、私の講師バッジの意味が分からなかったらしいリボン5人組は、急に恐怖で顔を歪めて下を向く。


「イエタテ先輩、風紀部室は必要ないです。でも、全員の名前は聞き出しておいてください。たぶん、学園長に報告が必要ですから」


 私はスカートに付いた砂埃を払いながら、にっこり笑ってお願いした。


「承知しましたファイトアロ講師」


 そう言ってイエタテ先輩が5人の名前を聞き出し始めたので、私は学食へと早歩きで向かった。




 到着した学食で兄さまと王子の姿を確認し、賑わう通路を急いでいると、突然背中に衝撃を感じて足に熱い何かが掛った。


「あつ!」っと言って後ろを振り向くと、スープらしき物が床にこぼれており、スカートを確認するとポタージュスープがかけられていた。


「嫌だわ。スカートからスープの匂いがするなんて」

「まあ、誰かしら? ぶつかったらゴメンナサイくらい言ってあげなきゃ」

「身の程知らずに天罰が下ったのかしら・・・」


 クスクス笑いと一緒に、明らかに悪意ある言葉が聞こえてきた。

 ぶつかった人物は既にその場に居なかったけど、きっと、そこら辺りに座っている女子だと思う。

 何かを言い返すのも面倒臭い。

 午後の講義は欠席だな。制服を洗わなきゃいけないもん。はあっ・・・


「大丈夫サンタさん? いったい誰がこんな真似を? アロー公爵家に喧嘩を売る気なら、もっと正々堂々とやればいいのに。

 まあ問題ない。これだけの学生が居れば、誰が犯人なのかは直ぐに分かる。

 魔術師学部の講師であるサンタさんに喧嘩を売ったってことは、魔術師学部に喧嘩を売ったも同然だ」


 クスクス笑いをしていた専門総合学部と国務学部のバッジを付けた女子集団に向かって、アレス君はきっぱりと言い放った。

 その途端、学食内は静まり返った。

 そしてアレス君と一緒に来た魔術師学部2年で、王子の側近候補でもあるマジメーダ先輩が、ずいっと前に出てきてフフフと笑って言った。


「これはこれは低俗な虐めだな。私は学生会書記のマジメーダだ。我が魔術師学部の講師に対する無礼な態度を見逃すことはできない。

 卑怯者は学生会が処罰する。犯人の情報を提供した者には、学生会特典を与える。これは決定事項だ!」


 この学園の学生会役員には大きな権限が与えてられていると、学園長や王子から聞いている。

 学生会特典とは、学生会主催のお茶会に招待されることだったと記憶している。


 ……王子の側近候補、マジで優秀。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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