128 サンタさん、当主の責務を考える
あのツクルデ教授が、妙に緊張した表情で私にお願いしてきた。
「特許申請って何?」
「えっ、サンタさんは特許申請を知らなかったのか?
どうりで素晴らしいアイデアとか魔法の秘密を、ペラペラと喋っていたんだな。
特許申請っていうのは、この世にない新しい魔術具や商品を作った時に、他者に真似されないよう商業連合に図面と商品を持って行き、これは自分が考案した物だと届け出て登録することだ。
他者が類似品を作ることを禁止してもらったり、一定の特許権使用料を払わせて作る権利を認めたりすることもできる。
今回の魔力量測定魔術具は、学生が複製を作る予定だから、商業連合には特定の機関、すなわち王立能力学園に限り複製と販売を許可するって申請して欲しい。
販売権利と特許権の10%を得られれば、権利使用料を売価の25%取られても黒字じゃ」
……あぁ、そう言えば発明家のダイトンさんと、エンジニアのショーニスさんが、特許申請はしないのかと訊いてたな。忘れてた。
ツクルデ教授によると、工学部の2年生になったら特許申請について詳しく学ぶらしいけど、手早く知るために商業連合の【特許申請の手続きについて】と書かれた冊子をくれた。
……ほうほう、ハンター協会の新ロードの通行料みたいなものかな?
『サンタさん、ちょっと違うぞ。新ロードは3年間だけど、特許料は商品によって特許権保持の期間が定められているし、使用料の割合も最大30%は取れる。
まあ、特許権使用料を広く売って金を儲ける奴もいるし、権利保持期間の間は自分が独占販売して儲ける奴もいる』
発明家のダイトンさんは自分の発明した魔術具で財を成したが、特許権のような大陸中で通用する決まりはなかったので、勝手に複製されることも多かったそうだ。
『学園に特許権の20%とかって、あげた方がいいのかなぁ?』
『既に試作品として学園に提出しているし、まだサンタさんは発明家として登録されていない。だから、姑息な教授だったら自分の名前で特許申請を提出したかもしれん。でもツクルデはそうしなかった。
それに、あの魔術具を学生が複製するには大量の魔核が必要だ。金がかかる』
『ああ、そういうことかショーニスさん。確かに、魔核以外にも材料費は必要よね』
ここ一番って時には、守護霊の皆さんに相談すれば大方解決できる。
「分かりましたツクルデ教授。特許権の20%を王立能力学園工学部発明学科とします。80%を私が取りますが、その内20%はカラ魔核を教会から買うための資金として使います。魔術師学部でもカラ魔核が必要になるから」
私はにっこりと笑って、提案された20%で構わないと告げた。
『魔術具採掘でガッポリ儲けるか、複製品を売ってガッポリ儲けるか悩むなぁ』
『サンタや、それは魔術具次第じゃ。売れそうで複製できるんなら権利を売ればいいが、複製不可能なら魔術具を売った方がいいじゃろう』
『それもそうだねサーク爺。よし、貧乏子爵家に明るい光が射した。学園にはバンバン作ってドンドン売ってもらおう』
正式な決定は工学部教授会で決定されるので、決まり次第直ぐに商業連合に特許申請を出すことになった。
私を発明家として登録させるため、学園は私に卒業資格をくれるらしい。
商業連合に登録する時、一般人や商人より、発明家の方が早く申請が通ったり、たくさんのサービスが受けれるらしい。
「当然と言えば当然の卒業資格ですね。だって、今年の卒業生の課題が師匠の作った魔術具なんですから」
う~ん、何故か今日も王子が我が家で晩御飯を食べている不思議・・・
ツクルデ教授との話を皆にしたら、美味しそうに安いお肉を食べながら王子がそう言った。
「ああそうそう母様、私、カーレイル叔父さんに屋敷の警備隊長になってもらいたいんだけどどうかなあ。
それと、シロクマッテ先生にガイアスラー名誉侯爵家の執事をお願いしようと思うんだけど。
私が信用できそうな人って他に知らないし、伯爵家三男のシロクマッテ先生も、侯爵家なら提案しても失礼じゃないよね?」
お金のことで光が射したから、後回しにできない人材確保に取り組まなきゃいけない。
侯爵家に執事や警備隊長が居ない状態では、頂いた離宮に転居できない。
「そうだねぇ、王様は現在離宮で働いている警備員1人、事務職員1人、メイド2人、料理人1人、庭師1人は、侯爵手当の白金貨1枚と引き換えに、そのまま使っていいって言ってたよ。
王宮で働いている者たちだから身元もはっきりしてるし、新しく雇うのは大変だろうからって。それと10歳になったら、父上が相応しい馬車を贈るらしい」
デザートの葡萄を上品に食べながら、王子が離宮の予定について教えてくれた。
う~ん、王様の紐付きかぁ・・・でも子供が当主だって分かったら、募集しても舐められる可能性が高いな。
「そうねえ、大賢者と名乗ったら、高位貴族や他国からのお客様もいらっしゃると思うから、貴賓をもてなすことに慣れた王宮メイドや料理人の存在は有難いわね。
王様の申し出をお受けしましょう。サンタが講師料を貰ってくれたら、警備隊長も執事も侍女も雇えるから大助かりよ」
母様が安堵した表情で息を吐く。
私たち親子は、男爵くらいの生活が理想だったのに……なんだかなぁ。
好き好んで高位貴族なんかと関わりたくないし、高級ドレスとか宝飾品にも興味がないもん。
子爵に相応しい生活を整えるより、その先の名誉侯爵に合わせた準備が必要だから、魔術具をどんどん作って特許料で儲けて、休みにはゲートルの町でハンターの仕事をするしかない。
領地のない貴族って、税収がないから商売をしている人が多いらしい。
……ああ、理想は新しいロード発見よね。自分で発見すれば30%は通行料が取れる。想像しただけで幸せ。サンタロードと命名するのが次の夢。
「明日にでもカーレイルに連絡しておくわ。確か、家が狭くて引っ越したいと言っていたから、週末は家探しをするはず。護衛を受けてくれたらいいわね」
王子が帰った後、食後のお茶を飲みながら母様がそう言ってくれた。
「うん、私が叔父さん家族をこの家に招くよ。まだ会ったことないから」
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