127 学園生活スタートする
過去10年間に新入生代表挨拶で使用された原稿を参考にして、当たり障りのない文章を作った私は、リハーサル通り原稿を見ながら挨拶を終えた。
最後に新しい魔術具作成で国に貢献する所存ですと言ったら、何故か工学部の教授や講師たちが立ち上がって拍手をしてくれた。
入学式の後は各学部の教室に行って、今年度の行事予定や学園の規律や禁止事項などの説明を聞く。
そして自己紹介だ。
発明学科の今年の新入生の職業は、発明10人・鍛冶14人・過去1人の合計25人だった。
ここでも順番は成績順で、前期はこの順番が出席番号になるらしい。
「サンタ8歳。職業選別の時に授かった職業は中位職の【過去・輪廻】です。
【過去・輪廻】は、これといった職業の縛りがないため、興味のある発明学科を選びました。
【中位・魔術師】の資格も持っていますが、1年間は工学部で学ぶ予定です」
1番最初に挨拶をした私は、王子とアレス君の指示通り、8歳の少女だからと舐められないように、魔術師資格を持っていることを言った。
兄さまも心配していたから、何でもない顔をして皆に教えておく。
当然「はあ?」という疑念の声が教室中で上がったけど、担任のコンツメール准教授が間違いないと断言してくれたので、私を見る皆の目が異質物を見るような目に変わった。
「始めに言っておくが、サンタさんは天才だから張り合おうとするな。
入学試験の提出物で、この世にない【魔力量測定魔術具】なんて凄い物を作ってくる化け物だ。
ツクルデ部長教授とも既に一緒に研究しているし、よく見ろ! サンタさんの胸に魔術師学部の講師バッジが付いている。学生扱いさえされていないんだ」
コンツメール准教授の話を聞いて、皆の視線が私の胸元に集中する。
そして目を見開きパチパチさせてから、何故か視線を逸らしていく。
今度は関わり合いになってはいけない人物指定されたようで、誰も私と視線を合わせようとしなくなった。
……あれ、私って学園から学生扱いされてないの?
その後も自己紹介は続き、今年度は高位職を授かったクラスメイトは居ないと分かった。
明日から本格的な講義が始まるけど、2日間は午前だけの講義で、午後は学園内の見学や部活紹介などがあるらしい。
因みに1年生の間は、どの学部も一般教養科目が中心で、専門学科の講義は週に3回くらいしかない。
この一般教養科目は、学園の4つの各エリアに分かれて行われるため、北エリアに在る工学部と鑑定士学部の学生は同じ講義を受ける。
兄さまの西エリアには、国務学部(王宮学科・教育学科・騎士学科)と、気象・天文学部があるので、きっと兄さまは王子と一緒に講義を受けると思われる。
アレス君の魔術師学部は南エリアで、農学部と一緒に講義を受ける。
面白いことに、今年大人気の専門総合学部は東エリアに在り、医学部と同じ講義を受けるようだ。
王子目当ての女子の皆さんは、中央本部エリアを通らないと西エリアには行けないから、きっと全学部の学生が使用可能な食堂や売店に繰り出すんだろうな。
王立能力学園は、全員同じ濃紺のブレザーの制服だけど、エリアによって左胸に刺繡されている校章の色が違う。
東は青色、西は橙色、南は緑色、北は紫色だ。
そして右胸には、各学部の名前が書かれた縦2センチ横5センチの学部バッジを、必ず装着するよう義務付けられている。
私もアレス君も、学部バッジの上に金の講師バッジを付けている。
直径3センチの丸いバッジで、魔術師学部のある南エリアの色であるエメラルドが中央で輝いている。
准教授は菱型のバッジ、教授は五角形のバッジで、各エリアの色の宝石が中央に埋め込まれている。
東はサファイア、西はカーネリアン、南はエメラルド、北はアメジスだ。
「魔術師学部の先輩方の間で、中位・魔術師試験の時のことが噂になっているようで、多くの先輩が僕に視線を向けてくる」
「しかも講師バッジだもんなアレスは。でも他の学部の学生は何も知らないだろうから、魔術師学部の講師バッジを付けているサンタは絡まれる気がする」
「まあ心配ないんじゃないかバルトラ。昼休みは毎日4人で食事するし、王子の側近候補と友人だと分かれば、軽々に近寄る者は居ないだろう。
もしも師匠に何かすれば、僕に伝たわると分かっているはずだからね。
各エリアに居る僕の側近候補の先輩4人が、そんな愚行を犯す学生を見逃すことはないだろうからね」
昼休み、わざと目立つように食堂の同じテーブルに座っている王子が、フフフと笑いながら言った。
こういうところは流石に王族だと思うし、権力の使い方をよく分かっていると感心してしまう。
ふと見ると、側近候補だと今朝紹介された先輩4人が、直ぐ後ろのテーブルに座っていた。
北エリアの側近候補の先輩は、3年で伯爵家の次男だ。工学部建設学科に在籍している。側近の皆さんは次男か三男で、将来王子のブレーンとして王宮務めをするんだと思う。
同学年の側近は兄さまだけで、来年王子と同じ歳の候補が1人だけ入学する予定らしい。王子が1年早く入学したから学年が違うけれど、それも意図してのことらしい。
まあ各学年に側近が居れば、様々な情報が入ってくるもんね。
その下の学年だと、今度は3歳年下の王女の側近候補が入学してくるそうだ。
午後は4人で仲良く学園内を散策する。
私たちの後ろを女子学生のグループが、ぞろぞろと付いてくるけど視線なんて合わせない。特に王子は視線スルーの天才だ。
明日は4人で部活動の見学をする予定だけど、直ぐ部活に入るつもりはない。
学園散策の後、私はツクルデ教授の研究室に顔を出した。
「遅いぞサンタさん。学園長から部長教授だけ呼ばれて聞いたんだが、本当に賢者、いや、大賢者だったんだな。
どうりであんな凄い魔術具まで作れるはずだ。あれは本当に凄い。
前期はあの【魔力量測定魔術具】を、卒業する5年生の作製課題に指定したぞ」
上機嫌のツクルデ教授によると、あれから1か月間の間に魔術具を分解し、復元できたことで発明学科は大いに盛り上がったらしい。
「それでだ、あの魔術具の特許申請なんだが、20%、いや10%でいいから学園にも権利を貰えんだろうか?」
「特許申請?」
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