12 サンタさん、魔法を披露する(1)
アンタレス君と魔法の練習をして夕食前に戻ったら、お爺様が迎えに来ていて驚いた。
2日前から私とアンタレス君は、古代都市ロルツのゲートに近い荒れ地で、こっそり魔法の練習をしている。
その場所は、ホッパー商会がトレジャーハンターに依頼して採掘した、遺物を保管するために買っておいた土地らしい。
私有地だから誰も来ないし、大きな岩が散在しているので人目に付きにくい。
アンタレス君も基礎訓練を開始し、この2日間で魔力操作が少しだけどできるようになった。
サーク爺曰く、なかなか筋がいいらしい。魔力量も私の半分くらいは有るみたいで、訓練次第ではまだまだ魔力量を増やせそうなんだって。良かった。
……呪いのことは気になるけど、今のところアンタレス君に実害はないみたい。
お爺様の為にご馳走を用意してくださったホッパーさんにお礼を言って、アンタレス君も一緒に同じテーブルに座る。
ホッパーさんがアンタレス君を紹介して、アンタレス君もお爺様に挨拶をする。
どうやらホッパーさんが下話をしてくださったみたいで、お爺様はアンタレス君を警戒しなかった。だからアンタレス君も、緊張を解いて笑顔で食事できた。
「お爺様、私、ゲートルの町で鍛錬し、4歳になったらトレジャーハンター協会の魔術師試験を受けて、合格したらホッパー商会の護衛魔術師として古代都市に潜りたいです」
ここは勝負。残りたいと真剣な顔でお爺様にお願いする。
「サンタナリア、お前はまだ3歳。4歳になったとしても幼児だ。
そのような危険な場所に行かせることはできん。
できれば、母親や兄と一緒に王都で暮らして欲しいのだが・・・まあ、そうじゃな、お前がどうしてもと願うのなら、ホッパー商会に下宿することは許可しよう」
……まあ当然かぁ・・・でも予想通り。ここからが本当の勝負よ。
「お爺様、私の魔法の師は私としか会話できません。
超古代に王族として生きた61歳の天才魔法使いで、現在の魔術師レベルはかなり低いと言っています。
そんな師から魔法を伝授されている私が、王都に行って学ぶべき魔術なんてありません。ああ、魔法陣は学びたいと思いますが、魔法陣など使わなくても、同じことが魔法でもできると師が言っています」
「何じゃと!」
……ふ、ふ~ん、流石のお爺様も、魔法のレベルの高さに驚いているわね。
……さあ、もっと大人っぽくして畳み込むわよ!
「確かに古代都市ロルツに潜るのは危険よ。
でもそれは、新人や鉄級レベルのトレジャーハンターの話しだわ。
私ね、お爺様の倍の大きさの岩なら、5秒で砕けるし、実は、ちょっとだけ空中で浮けるわ」
「はあ?」と声を出したのは、お爺様だけじゃなくホッパーさんとアンタレス君もだった。
「百聞は一見に如かずよ。あした、私の魔法を見せるね。
そしてトレジャーハンター協会が行う魔術師試験に合格出来たら、私を古代都市ロルツに潜らせて。
もちろん、銀級以上のトレジャーハンターパーティーと一緒に行動するわ」
私は自信満々って顔をして、両手を腰に当て胸を張った。
「サンタさん、ま、先ずは、トレジャーハンター協会へ行って、魔術師試験のレベルや、試験内容を調べましょう。
私は魔術師の技には詳しくないですし、ゲートルの町にいる【下位・魔術師】は2人で、金級パーティーに所属しており、現在、長期遠征中らしいです。
質問することもできないので、遠征から帰ってきたら私が訊いてみます」
あらら、ホッパーさんにも止められちゃった。
『サンタよ。そう急ぐでない。其方が無茶をするとホッパーに迷惑が掛かるぞ。
古代都市には、巨大な蜘蛛やムカデ、蝙蝠や蛇などがうようよ居るんじゃ。
長い間地中に埋まっておったから、謎の生物が誕生しておる可能性もある。
わしが調べたところでは、毎年10人以上が死に、50人以上がケガをしておるらしいぞ』
『知ってるよ。今日出会ったハンターさんに聞いたから。
巨大ムカデには、銅級以上が5人で戦わなきゃ勝てないって。
でもさぁ、そんなバケモノが出るのは、中層からでしょう? 私は上層部でいいのよ。新人が許可してもらえる上層部で』
サーク爺の心配も分かるけど、古代都市に潜らないと自分の力が分からない。
毎日岩を的にしても、動かない的じゃぁ上達できない。対人戦なんて絶対ダメだから、弱い生物でいいから相手したいのよ、あたし!
「なんだか世話を掛けるなホッパー。サンタナリアは言い出したらきかん。
まあ現実を知れば大人しく・・・は、ならんだろうが、もう少し、せめて7歳までは待つしかないと分かるだろう。
7歳になったら国の魔術師試験を王都で受けることができる。それに合格できるよう、アンタレス君と一緒に頑張ればいい」
いつの間にか食事が終わり、香りのよいお茶が注がれていく。
さすが大商会、お茶も高級品だ。でも私の前に差し出されたのは葡萄ジュース。これだって、庶民の口にはなかなか入らない高級品だと思う。
「ああ美味しい。私、ここに来て良かった。
オバサンには捨てられたけど、ホッパーさんに拾われた。しかもお金持ち。ちょっとだけオバサンに感謝しそうになるよ。
しかも魔法の練習場まで用意してくれて、アンタレス君っていう仲間もいる。
だからお爺様、あたし、いっぱい頑張るよ。そして、絶対に金級トレジャーハンターになる」
「あ、う、うん、そうか。わしは魔術師になって王立能力学園に入学するのも良いと思うぞ。
それにあれじゃ、女の子がトレジャーハンターになってもバカにされたり、なめられるかもしれんぞ」
お爺様は、なんとか私を安全な道に導きたいみたい。
でもそれじゃあ、母様に家を買ってあげるのが遅くなっちゃう。だからダメ。
「大丈夫。あたし、髪を切って男の子の服を着て活動するから。
今だって男の子みたいだし、ズボンの方が動きやすいもん。
だからこれからはサンタナリアじゃなくて、サンタって名乗る」
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