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118 2つの受験(3)

 試験は順調に進み、軍や王宮魔術師団で働いていた4人は半分が合格していた。

 王立能力学園の学生は、今のところ3人が合格して2人は不合格だった。


『3年間学んでこのレベルか・・・これでは魔法の初級も難しいのう』


『まあ魔術は暗記が大事だからね。でも、魔法は感性と想像力が大事だから、勉強が苦手な者は意外と魔法の方が相性がいいかもしれないよサーク爺』


『じゃが、魔力操作ができぬ者では話にならぬぞ。そもそも魔法使いは魔力量が全てじゃ。生まれ持った魔力量を増やすのは、そう簡単ではない。

 これまで教えた教授や公爵や王太子は、もともと高位職じゃ。魔力量が多いからこそ直ぐに魔法が使えたのであって、こやつらでは的当てくらいしかできまい』


 待っている間、魔法と魔術の違いとか、魔力量についてサーク爺と議論していたら、途中で試験官が交代すると発表があった。

 3倍返しをする予定のデモンズが、私とアレス君を睨み付けながら移動し、主審の位置に立つと勝ち誇ったように口元を歪ませた。


 ……魔術師学校長が伝えた、無能っていう偽情報が効いてるわね。

 

 ……しかも副審2人の内1人は、私が魔法を教えた王立能力学園のヒョーイ主任教授よ。


 その後も試験は進み、主審デモンズは不合格の学生に偉そうにダメ出しをして、このままでは魔術師協会は無理だな……なんて見下しながら威張っている。


「ほんと小さい奴だね」と、アレス君が呆れながら首を横に振る。


「まあ、自分もダメ出しされて見下されたら、少しは反省……なんてしないかぁ。

 アイツは実力じゃなくて、大領地を治めるエルー伯爵家の次期当主候補だから偉いと思ってるみたいだもんね。

 アロー公爵が王宮担当に任命したから、王様からの覚えめでたくなんて自惚れてるって、王太子が笑いながら言ってたし」


「笑っちゃうよね。横領と横流しの証拠をお爺様に握られてるとも知らず、最後の仕事となる主審でサンタさんに3倍返しされるんだから、悪いことはしちゃだダメだよね」


 私とアレス君は観覧席の最後尾に座って小声で話す。

 試験中は大きな音がするから、周囲に聞かれることはないけど、隣に座っている友人には聞こえたみたい。


「サンタ師匠を閉じ込めた奴だもん、僕なら爵位剥奪で罷免しちゃうね」


 試験の応援という名目で、私の3倍返しを見届けに来た友人エルドラ王子が、王族らしいことを言いながら隣で呟く。

 

 私の誕生会以降、魔術師じゃないけど魔法の練習を始めたエルドラ王子は、私を師匠と呼ぶようになった。

 今では初級魔法が少し使えるようになり、そのことを知った王太子が大喜びして、私に上級地区にある王族所有の離宮をくれた。

 正直、訳が分からない。でも、名誉侯爵も貰ったから有難く頂いた。


 まあ離宮と言っても、今の家の3倍くらいの大きさで、使用人もそのままにしておくから、好きな時に泊ったり住めばいいと言われた。

 母様の話では、大賢者を国が保護したり住居を提供するのは当然のことで、他国に行かせないようにするための手段だから、どうか受け取ってと王太子妃にお願いされたとか・・・



 いよいよ私たちの番が回ってきた。

 私たちを笑い者にするため、合格後も残っていた王立能力学園の学生3人は、観覧席の最前列を陣取ってニヤニヤしている。



「次! アンタレス・ダグラン・アロー」


 副審であるヒョーイ教授が、アレス君の名を呼んだ。


「はあ? アロー? アローだと!」


 主審とは思えない狼狽えっぷりで、デモンズは目を見開いてアレス君を見る。


「なんだって、アロー?」と、3人の学生たちも驚きの声を上げた。


 そしてデモンズと学生が呆然としている間に、アレス君は全ての課題を完璧にクリアし、副審2人は今日の最高得点となる10点の札を上げた。


「し、信じられない!」と3人の学生は呟きながら、驚愕の表情でアレス君を見ている。

 デモンズに至っては、副審に「どうした主審!」と声を掛けられ、ようやく再起動し、無意識か故意かは分からないけど【失格】という札を上げた。


 そう、【不合格】ではなく【失格】という札を上げてしまったのだ。

 観覧席で見ていた者も、魔術師協会の者も、王立能力学園の教授や教師たちも、全員が不審者を見るような視線をデモンズに向け、「あれが失格だと!」と騒ぎ始めた。

 直ぐに副審2人が走り寄り、デモンズに文句を言っている。


「嫌だわ、魔力学会の時に魔力量でアンタレス君に負けたからって、未だに根に持っているなんて、大人として恥ずかしくないのかしら。

 アンタレス君が失格なら、今日の受験者は全員が【失格】ってことじゃない?

 まあ5歳だった私を攫って陥れようとした卑怯者だもの、公正であるべき審判、しかも主審が務まるとは思えないわね」


 競技開始位置に進み出た私は、魔法で声を大きくして喧嘩を売った。

 突然現れた少女の大きな声を聞き、何事だと皆が私に視線を向ける。

 あれ程のざわめきが、しんと静まり返り、主審デモンズがどう返答するのか見守るというか確認しようとする。


「このクソガキが! 身の程も知らず中位・魔術師試験を受けるとは、魔術師をバカにするのもいい加減にしろ! 

 しかもこの私を、主審である私を侮辱するとは、お前も【失格】だー!」


 ……あーあ、完全に怒りで我を忘れてるわ。


「今の発言はどういうことだ?」


「なんだお前は? 出しゃばるな!」


「出しゃばるな? 今の言葉、この国の王子である私に向けて言った言葉か?」


 着ていた薄い夏用のローブと帽子をその場で脱ぎ、如何にも王子様ですって豪華な服装にチェンジしたエルドラ王子は、5人の王宮騎士団を連れている。

 またまた現れた王子と名乗る少年の登場に、会場内は騒然……とはならず、皆は慌ててその場で礼をとったり跪いていく。


「エ、エルドラ王子? な、何故ここに?」


 驚愕の表情で王子を見て、デモンズも慌てて跪いていく。


「エルドラ王子、私は本日試験を受けるために来たサンタと申します。

 私の友人であるアンタレス君は、完璧な魔術で課題をクリアしたのに失格と判定され、私は試験さえ受けさせてもらえず失格となりました。

 どうかお願いです。私が本当に身の程知らずなのか、この主審と対決し確認させてください」 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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