表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/148

115 西地区の闇(11)

 アレス君が予定通り入り口の建物を倒壊させてからは、もう無双。

 最奥の火災と入場口の建物の倒壊で、再開発地域はパニック状態。

 火を消そうとする者、逃げようと倒壊した建物をよじ登ろうとする者、怒鳴り声に悲鳴、完全に冷静さを欠いている悪人たちは、いったい何が起っているのかさえ理解できない。


「さあ、仕上げよ。上級魔法インフェルノ!」


 目を瞑り、意識を両手に集中し、大きく息を吸ってから目を見開き、空に向かって魔法を放つ。

 私の手から放たれた魔力は、上空20メートルくらいで数百もの炎の槍となり、練習場の残りの建物に向かって突き刺さり貫通していく。

 きっと他の場所から見たら、空から炎が降り注いでいるように見えるだろう。


「これは凄いね。ここに居たら熱風にやられてしまうよサンタさん」


 いつの間にか戻ってきたアレス君が、轟々と燃える建物を見て、撤退しようと声を掛けてきた。


『サンタさん、王太子とホロル殿が軍やら警備隊やら、王宮魔術師団を連れてきたぞ』


 ダイトンさんがそう教えてくれたので、阿鼻叫喚で逃げ惑う悪人たちを捕らえてくれると期待しよう。


『サンタや、あそこ、倒壊した瓦礫の側で怒鳴っているのがボスのジーガインじゃ。あれは逃がしてはならんぞ』


「了解サーク爺、アレス君、あそこで叫んでいるボスと幹部に総攻撃を仕掛けるわよ」


「了解。でも、まだサンタさんほど命中率が高くないから、数で勝負するよ」


 私とアレス君はシリスと一緒に城壁の上を移動し、最後の仕上げである悪の元凶に鉄槌を下しにいく。

 ポケットに入れておいた石礫を両手いっぱい握りしめ、「行け―」と叫んで投げていく。

 アレス君も一緒に「飛べ、そして穿て」って言いながら、尖った石を選んで飛ばしていく。


 3分後、肉眼では全員が倒れたように見えるけど、此処からでは確認できない。


『サンタさん、バッチリよ。かつがつ死んでないくらいの瀕死状態だったわ』


「ありがとうパトリシアさん。アレス君、任務完了。念のため近隣に雨を降らせて撤退しよう」


「了解。僕は雨は無理だから大きなウォーターボールでいくね」


 私はシリスに乗って北に少し移動し、城壁から上級魔法豪雨を発動させ、アレス君は届く範囲の建物の屋上に、3メートル級のウォーターボールを放っていく。

 魔法の練習場になった再開発地域は、後ろと北側に城壁があり、建物の正面には【闇烏】が勝手に築いた5メートルの壁があるので、出入り口以外はぐるりと壁に囲まれていた。


 ……誰にも侵入させないように築いた壁が命取りになったわね。しかも進入路が一箇所ってことは、逃げ道も一箇所ってこと。自業自得。


『サンタさん、延焼は心配なさそうやで。教会が警鐘を鳴らし、火事に気付いた近隣住民たちが、延焼せんように防火水槽から水をバケツリレーで撒いとる』


 トキニさんが、西地区の近隣の様子を教えてくれる。


『王都民の多くは、火事の現場が再開発地域だと分かると、ざまあみろって言ってるわ』


 マーガレットさんが嬉しそうに報告してくれたので、直ぐアレス君にも伝えた。


「良い子はオネムの時間だわ」

「うん、魔法の練習楽しかったね」

「ガウ」



 ◇◇ 王太子 ◇◇


 王城を出発して僅か10分。

「西地区から炎が上がっています」と、部下の叫ぶ声が聞こえた。

 馬車の窓を開け顔を出すと、本当に西側の空が赤くなっていた。

 同時に教会が警鐘を鳴らし始め、各地区の物見やぐらの警鐘も鳴り始めた。

 建物が密集する王都で火災が起きるということは、甚大な被害が出るということだ。


 ……あぁ、本当に、本当にヤルのか? なんてことだ・・・この厄災を招いたのは私とホロル殿だというのか? 


 一般地区に入る頃には、多くの住民が家から出て不安そうに西地区を見ていた。

 ようやく西地区に入ったのと同時に、その信じられない光景を目にした。

 突然眩しい光が上空に現れ、西地区の一角、恐らく再開発地域と思われる場所に向かって、数百もの炎が降り注いでいく。


 ……あれはいったいなんだ? あんなものを人間が生み出せるのか?


 気付けば全員が移動するのを止め、呆然とその信じられない光景に見入っていた。

 誰かが「天罰だ、神が天罰を下されたんだ!」と叫び、私はゴクリと唾を飲み込んだ。


 ……人々はこの光景を神の御業と思うのだ。確かに、人では有り得ないと考えるのがこれまでの常識だ。


「王太子様、急がねばなりません。もしも極悪人共を取り逃がせば、もっと大変なことになります」


 切羽詰まった感じでホロル殿が声を掛けてきた。

 はっと我に返り、己のすべきことを思い出した私は、全軍に向かって「極悪非道な闇烏を1人残らず捕らえよ!」と叫んだ。


 そこからはもう地獄だった。

 命からがら逃げだしてきた闇烏の者たちを、倒壊した出入り口の建物の前で捕えたり、闇烏が造った壁から飛び降りる者を捕らえたりと、夜が明けるまで犯罪者たちの捕縛をした。


「こんなにも人数が居たのか・・・」


 捕らえられた者は180人を越え、建物の下敷きになったり逃げ遅れた者は20人くらいだ。200人を越えているではないか。 

 いや、油断してはいけない。もしも幹部でも取り逃がそうものなら、あの炎が王城に降ってくる可能性があるのだ。


 あれほど凄まじい火災だったのに、再開発地域以外には延焼していない奇跡に安堵したが、巨大な水の玉が飛んできて建物を濡らしてくれたとか、ある一定の区域だけに豪雨が降ったと住民が証言していると報告を受け、私とホロル殿は絶句した。



 夜が明けて、全てが炭になり、取り壊す必要のなくなった再開発地域を見た軍の指揮官は「ハハハ、取壊しのための資金が5分の1になりましたね」と、煤だらけになった顔で苦笑した。


「確かに、長年解決できなかった取壊しと、闇烏の捕縛が一夜にして解決した」


 未だ混乱する思考で返事をした私は、天災級の悪夢のように感じた出来事が、悪を討ち滅ぼした奇跡の出来事のように思えてきた。


 ……いや、実際にそうじゃないか。闇烏のボスと幹部は瀕死の状態で発見された。7歳と9歳の子供に、王都の闇は打ち払われ、大きな問題が解決したのだから。


 ……大賢者とは、有難い存在であり、恐怖の存在であると胸に刻もう。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話より新章スタートします。

これからもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ