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112 西地区の闇(8)

 光猫のシリスが、容赦なく【闇烏】幹部デビーランの止めを刺した。

 私やアレス君が手を下す価値もないと、リーダーや仲間が言うからシリスに任せた。殺される側の恐怖を身を以て体験しただろうから、もう忘れよう。

 御者は私が片目・片足を魔法で攻撃し、再起不能になっている他の者たちの所へ引き摺っていった。


 諸悪の根源でもあるアロー公爵領のツルリ子爵は、デビーランの惨状を見て腰を抜かし、ガタガタと震えながら這って逃げようとした。

 アレス君は「右足は母様の分、左足は僕の分だ」と言って、小石で両足を撃ち抜き、私は右肩の上に鬼の形相でウエストポーチを落とした。


 ……なんだか微妙な音がしたから、もう右腕は使い物にならないだろう。


 へなちょこツルリ子爵は直ぐに気を失ったので、渋々【闇烏】の馬車に乗せて王都へと向かうことにした。

【闇烏】の馬車の手綱は魔法で元通りに繋ぎ、サブリーダーが御者を務め、血塗れの私とアレス君はリーダーと一緒に馬車に乗り込んだ。

 他の仲間はホッパー商会の馬車で戻る。


 

 王都の外門でリーダーは警備隊に駆け込み、公爵家の子供と女性男爵が【闇烏】の殺し屋に拉致され、殺されそうになっていたので応戦し、なんとか助けたと報告した。

 馬車の中を検分した警備隊員は、血塗れの私とアレス君を見て絶句し、2人の身分証を見て顔色を変えた。


 小隊長は直ぐにアロー公爵家に使いを送り、警備隊本部に報告しに走った。

 王都で筆頭公爵家の子息が攫われ襲われるなど、あってはならない大事件であり、子供とはいえ男爵本人まで同時に襲われるなんて、治安維持を担当する警備隊にとっては大問題であった。


 しかも犯人は()()【闇烏】であり、殺しを依頼したのは子爵であると聞かされ、警備隊の独断で判断できる案件ではないと、外門の警備隊員は頭を抱えた。

 ようやく話す気力が戻った可哀相な子供の私は、駆け付けてきた警備隊本部の幹部に対し、二重誘拐という衝撃の真実を語った。


「まさか、自分たちが通う魔術師学校の教官に売られるなんて、うぅ、グスン」


 ここは泣いて泣いて、生きる為に無我夢中で魔術を使ったいたいけな少女を演じなければならない。


「僕たちを教官から買ったモーリー子爵とベルクラ子爵は、盗賊の振りをした【闇烏】の男たちに、金か子供を寄越せと言われ、養子に来いと説得していたくせに、あっさり盗賊に引き渡したんだ。

 そして【闇烏】たちは、僕たちを殺そうとした。

 一生懸命に魔術の練習をして、頑張って、頑張ってきた……きたのに……どうして、なんで……殺されなきゃいけないんだ。ウゥゥ」


 アレス君も私に負けず、迫真の演技で・・・いや違う、演技じゃないよ真実なんだし、私たちは子供なんだから、泣いて当たり前だよ。

 警備隊員は、怒りの表情で魔術師学校の校長とデスタート教官を連行しに向かった。


「俺たちが通り掛かった時には、死に物狂いで魔術を使って悪党に対抗していた。

 でも、そこは子供。今にも力尽きようとしていたんで、俺たちの相棒でもある光猫のシリスが、助けに入ったんだ」


 そこからは、【闇烏】の悪党たちをボコボコにしたことを正当化するため、聞くも涙、語るも涙の話が展開された。

 主犯のデビーランは死んでるし、依頼者のツルリ子爵は気を失ったままだから、異論を述べる者などいない。

 因みにシリスは、思いっ切り暴れて満足したのか馬車の上で寝ている。



 警備隊にとって【闇烏】は、最も敵対する悪党集団だから、よくぞ生き残ってくれたねと、泣きながら警備隊員たちは頭を撫でてくれる。

 もしも公爵家の子息が死んでいたら、警備隊は犯人を捕らえるまで連日眠れぬ夜を過ごすことになっていただろうと、本音までポロリと漏らしたけどね。


 いやもう本当に、よく生き残ったよ私たちって思うと、演技じゃなく涙がボロボロ零れちゃう。

 しかも安心したらお腹が空いて、グーグー鳴っちゃう。もう夕方だもん。

 子爵たちが馬車の中でお弁当を差し出したけど、何が混入しているか分からないから食べない方がいいって守護霊の皆が言うから、一口も食べてないし。


 なんとか歩けますって感じで洗面所で顔の血を落として、バザーでは売れなかった割れたクッキーをウエストポーチから取り出し、私とアレス君はモグモグと食べる。

 私たちの食べる姿を見て、最速踏破者の仲間も警備隊の人たちも、ほっこりと笑顔になっていく。



 魔術師学校の校長が到着したのは午後6時くらいで、10分後にアロー公爵家の馬車が到着した。

 事情を警備隊員から聞いたらしい校長は、私たちの正式な名前と身分を知って、部下の犯した罪を土下座して謝罪した。

 デスタート教官は本日学校を休んでおり、警備隊員が家まで捕縛しに向かっているらしい。


「自力で逃げ出したのか?」というのが、アロー公爵家嫡男ホロル様の第一声だった。


 ……はあ? 何言ってんのこの人・・・大丈夫かアンタレスとか、助けられなくて済まなかったなとか、生きていてくれて良かったとかさぁ、他に言うことあるんじゃない?


 ……最速踏破者の仲間も警備隊の人たちも、えっ?って顔をしてるじゃん。


「本当なら死んでた。いったい何をしていたのかなんて言い訳は聞きたくない。

 私はアロー公爵家の爵位を返上する。大賢者である私を守る気もないようだし、実の息子であるアレス君さえ守れない者は信用できない」


 私が睨み付けたから、ホロル様はき気まずそうな表情をしたけど、私は思ったことをズバッと言った。

 全く頼りにならないし、行動が遅い。

 いや、もしかしたら助ける気が無かったのかもしれない。

 最速踏破者が助けに来れたんだから、アロー公爵家の者だって来れたはず。言い訳なんて聞きたくもない。


「爵位を返上? いや、待ってくれサンタさん。私も父上も王様に軍を動かして欲しいと頼んだが、軍を動かすのに時間が掛ってしまった。

【闇烏】の拠点には向かったんだ。本当だ。だが、侵入することができなかった」


「全ては言い訳。何故自分で助けようとしない? もしもアレス君が嫡男だったら自分で動いた? それとも自分の命可愛さに、軍を動かすのが公爵家のやり方?」


 大賢者だと名乗った私の口は止まらなかった。   

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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