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108 西地区の闇(4)

「デスタート教官から養子縁組の話を聞いていると思うが、君たちは貴族になりたくないのか?」


 ベルクラ子息と名乗った男は、馬車が城壁の外に出たところで声を掛けてきた。

 きっと悪人じゃないんだろうけど、デスタート教官に金を払った時点で善人じゃなくなってる。


「うちに養子に入れば、初級学校でも中級学校でも行かせてやれるぞ。養子縁組承諾書にサインして、親の所に案内してくれたらの話しだが」


 アレス君を養子にしたがっているモーリー子爵は、悪い話じゃないし今より贅沢な暮らしだってできるんだから、よく考えた方がいいと説得しにかかる。

 

「僕もサンタさんも、家庭教師がいたから中級学校までの勉強は終わってる。

 養子になんてならなくても、中位・魔術師に合格すれば王立能力学園に無試験で入学できるって、魔術師学校の学生は全員知ってる」


 アレス君は、子ども扱いする2人の子爵に不機嫌な顔をして言う。


「それに中位・魔術師に合格したら、最低でも準男爵になれるって知ってるわよ」


 何も知らない無知な子供だと思っている2人に、私たちは相手の顔を見ることもなく淡々と言う。


「中位・魔術師に合格できる程に優秀らしいが、後ろ盾がないと準男爵止まりだ。だが、親が子爵だったら男爵にだってなれるぞ」


 モーリー子爵は、そこから準男爵は貴族とは言えないとか、準男爵如き身分で王立能力学園に入学したら、高位貴族に虐められ酷い目に遭うぞと脅してきた。


 でも私もアレス君も全く興味を示さず、馬車の窓から外を見て口をつぐむ。

 馬車はどんどん王都から離れていくようで、この後の展開を知っている私とアレス君は、自分たちが生き残るための作戦を開始する。


「親切そうにしてるけど、善人は子供の手を縛ったままになんてしないわ」


「そうだねサンタさん。もう手が痺れてペンなんて持てないね」


 私たちは、守護霊5人が集めてくれた情報で、盗賊を装った【闇烏】の奴等に、林の奥に連れていかれて殺される予定であると知っている。

 その作戦を立てたのが誰で、全てを命じているボスの名前も、あの西地区が再開発地域と呼ばれていることも知っていた。


『こんな場所があるから悪人がはびこるのね。指揮を執っている王太子も役に立たないわね』


『そうねマーガレットさん。5倍返しは当然だけど、200人近い数の悪党を一掃するのは骨が折れそうだわ』


 マーガレットさんとパトリシアさんは、調べれば調べる程に汚い極悪人だって怒ってた。


『依頼する奴らがいるから成り立つ商売なんやろうけど、女子供まで売ったり殺したりって・・・絶対にあかんやろう』


 私たちを殺す計画を立てたデビーランという悪党に張り付いていたトキニさんは、アイツだけは生かしておけないと、トキニさんにしては過激な発言をしてたから、子供の私たちには言えない悪行を聞いてしまったんだろう。


『あのボスも相当だ。盗みに恐喝、誘拐に殺し、放火なんてもんも平気でやるクズだ。依頼するクズにも鉄槌を下す必要がある』


 ダイトンさんは低い声で言いながら、自分に体さえあれば、あの廃墟を粉々にしてクズどもを生き埋めにし、依頼者は社会的に抹殺するのにと怒り心頭だった。


『しっかり生き延びたら、サンタは上級魔法を、アレスは中級魔法の練習をすればいいじゃろう。どうせ壊す予定の廃墟じゃ。好きにしたらええ』


「えっ、本当に? 上級魔法を試してもいいのサーク爺? アレス君、サーク爺がこの廃墟で魔法の練習をしてもいいって」


「本当に? それじゃあ僕は、逃げ場を塞ぐために入り口辺りの建物から破壊しようかな」


 なんて会話を、あの監禁部屋で話していた私たちは、目の前の子爵なんかには全く興味もなかった。

 でも、嫌がる子供をお金で買おうとした罰は受けて貰わなくちゃいけない。

 もう二度と同じことをしないように。




「ところでオジサンたち、私たちの名前をちゃんと確認してないでしょう?

 あの無能教官は、私を準男爵家の娘で、アレス君を平民だと思ってるみたいだけど、それ、間違ってるから」


 手の縄を解かせた私たちは、林の中で馬車が止まったのを確認し、生き残るための作戦を開始する。


「はあ、なんだと!」


 私の話を聞いた子爵2人は、怪訝そうな顔で私を見ながら叫んだ。


「笑っちゃうよね。王宮に顔パスで入場できる僕たちを平民だなんてさ」


 アレス君は上着の下に隠していたウエストポーチから、王宮入場許可証と王太子宮入場許可証を取り出し、2人の子爵にチラリとみせて顔の前でピラピラ振る。


「王宮入場許可証? いや、そんな・・・まさか、貴族の子なのか?」


 モーリー子爵は狼狽えながら、アレス君の身分を確かめようとする。


「私ね、魔術師学校に入学する前は、ガリア教会大学で働いてたの。これ、教会本部が発行してくれた身分証なんだけど・・・私たち教会の保護対象なんだよね。

 もしも報告したら、オジサンたち破門されちゃうね。警備隊に捕まるより、教会を怒らせる方が怖いと思うよ。私、名誉教授だから」


 私もウエストポーチから教会が発行してくれた身分証を取り出し、「取り返しのつかないことをしちゃったね」って、にっこり笑ってあげた。


「教会の保護対象だと? そんなバカな・・・私たちはデスタート教官に騙されたのか? あ、有り得ない!」


 ベルクラ子爵は可哀相なくらいに狼狽え、教会の紋章がババーンって刻印された証明書を見て、化け物でも見るような視線を私に向けた。


「でも、私たちを【闇烏】に攫わせたことも知ってるし、強引に養子縁組させようとしたよね?」


「まあまあサンタさん。まだ未遂、まだ養子縁組承諾書にサインさせられてないから、僕たちの親に、騙されて誘拐しましたと謝ってくれたら許してあげようよ」


 あら、優しい顔をしたアレス君ったら、アドリブで怖いことを言うのね。

 もしもアレス君の親に会ったりしたら、貴族社会から抹殺されかねないと思うんだけど・・・まあ、やらかした責任は取ってもらわなきゃいけないもんね。


「そ、そうしてくれると有難い。我々は騙されたんだから、親御さんにしっかり説明させてくれ」


「分かったよベルクラ子爵。今から盗賊に襲われるから、お互い命があったら僕が親に会わせてあげるよ」   

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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