106 西地区の闇(2)
◇◇ 最速踏破者 リーダー ◇◇
なんてことだ!
王都に到着した日に、サンタさんが誘拐されるなんて。
「それじゃあホッパーさん、サンタさんとアレス君は西地区の再開発地域に連れていかれたんですね。
分かりました。何もせずに待っているだけなんて、俺たちには無理です。
ハンターにはハンターの情報網があるんで、その【闇烏】って奴等のことを調べてみます」
俺はそう言って、メンバー全員で王都のトレジャーハンター支部に向かった。
本部の奴等の愚行で、サンタさんとアレス君はハンターを辞めてしまった。本部なんて全く信用できない。
ゲートル支部の多くのハンターは、魔法使いの2人がハンターを辞めたと聞き、皆が激怒し本部に殴り込みに行こうぜって騒ぎになった。
まあチーフもサブチーフも、本部のやらかしが原因でハンターを辞めたサンタさんを、ハンターに戻るよう説得してくれなんて戯言を並べた指示書を見て、ブチギレ過ぎて支部のテーブルを破壊してたもんな。
そもそも、魔力学会でサンタさんが拉致監禁された件の賠償だって、本部は何もしてないってことが信じられない。
副協会長であるボルロさんは、魔力学会の事件と今回の件の責任を感じて副協会長の職を辞したのに、ハウエン協会長は全く悪びれることもなかったという。
……まあ、7歳のサンタさんを利用するだけ利用しようとするヤツが協会長でいるうちは、辞めて正解なんだろうとは思う。だけどいろいろ腹が立つ。
「今回の犯人は、魔術師学校の教官の可能性が高いってホッパーの旦那が言ってたけど、あんなに可愛いサンタさんを、優秀だからって売ろうとするなんて許せねえ!」
「ああサブリーダー、この手で一発、いや、三発は殴らないと気が済まないぜ」
サブリーダーのヤバノキに同意して、サバンヤが拳を握る。
「いや、そういう奴は生かしておくべきじゃない」
俺もつい本音が漏れちまった。
メンバーも全員「そうだな」って黒く笑い、指をボキボキ鳴らして頷く。
王都でも金級パーティーという肩書は、それなりに通用する。
王都支部には食堂が併設されてて、今日は収穫祭ってこともあり、結構な人数が食堂で寛いでいた。
王都で活動するハンターは、城壁の外にある地下通路が発見された小さな古代遺跡に潜って採掘している。出てくるのは主に日用品だ。
二手に分かれて、酒や飲み物を奢って情報収集する。
金級ハンター証を見せて、仲間が困ったことになっているんだと言えば、疑うこともなく協力してくれる奴が多い。
ハンターは仲間を大事にするから、大銀貨1枚(1万エーン)で【闇烏】のボスや幹部の情報を提供してくれた。
「あいつらには、ハンターも手を焼いているんだ。ハンターでもないのに遺跡に潜ったり、ハンターの採掘した物を横取りされることもある。
警備隊も取り締まろうとはしてるんだが、あの要塞のような再開発地域を不法占拠して、犯罪者は日々増えるばかりだ」
最後に情報をくれたのは王都支部のサブチーフだった。
王太子様が治安維持と再開発のために取壊しを決められたけど、工事をしようとすると関係者が襲撃されたり、警備隊の上官の家が放火されたりで、なかなか工事が始められないらしい。
王都民は、怖くて西地区の奥には近寄れないのが現状で、ここ2年の間に起った様々な事件に関与しているとの噂もあり、やりたい放題なんだとか。
ボスの名前はジーガインという名で、没落した元子爵家の子息で35歳くらい。
ボスの下に幹部が数人いて、組織的に悪事を働いているそうだ。
……こりゃぁ、想像していた以上に厄介な奴等だ。
◇◇ デスタート教官 ◇◇
とうとう2人を発見した。
寮生活をしている平民の学生から、アルバイトで教会に行った時にアレスとサンタを見掛けたと聞き、この私がわざわざ確認しに向かった。
収穫祭のバザーに出品するという情報も手に入れたので、確実に攫うため裏家業の者たちに依頼した。
子供1人につき白金貨1枚と吹っ掛けられたが、男爵家ではなく子爵家との養子縁組ができたから、手数料が白金貨2枚増えたので問題ない。
もう中流地区の屋敷を契約したから、今更後には引けない。
この私をここまで手こずらせたガキは初めてだが、結局は私に感謝するだろう。
平民や準男爵家の子供が、子爵家の子として学校にも行けるのだから。
さて、そろそろお2人を迎えに行くか。
ベルクラ子爵は王宮魔術師団の事務部長で、サンタが準男爵位を授かったら12歳の次男と婚約させ、男爵になったら結婚させるようだ。
モーリー子爵は王宮の外務部の次官で、娘しか居ないからアレスが準男爵を授かったら三女と婚約させるらしい。
……あの2人は間違いなく中位・魔術師に合格する。出世もできるだろう。
……双方から感謝される養子縁組なのに、こそこそ隠れて行わねばならないなんて納得できないが、そこそこの仲介料を得るためだ。我慢しよう。
待ち合わせ場所で2人を馬車に乗せ、目的地である西地区へと向かう。
もちろん自分の家の馬車ではなく、借りものの馬車だ。
サンタとアレスを引き渡した後、2人の子爵は【闇烏】が用意した馬車に乗って、一旦王都の城壁の外に出る。
ガキ2人に逃げられないよう、そして養子縁組承諾書にサインさせるためだ。
【闇烏】を使うのは2度目だが、あいつらに任せれば間違いない。
一旦馬車で王都の外に出た方がいいと、私が考え付かない提案までしてきた。確かに強引に攫ったから逃げる可能性がある。
決して悪い養子縁組ではないと説明し、納得させる必要があるとボスは言った。
裏家業の前は貴族だったらしいから、貴族的な思考もできる頼もしい奴だ。
西地区に入ると、何処からともなく1台の馬車が前に出てきて、我々の馬車を先導していく。
今回の引き渡しは、絶対に人目に付かないよう再開発地域の最奥で行われる。
進むにつれ如何にも廃墟という感じの不気味さはあるが、確かに人目はない。
「ようこそ。ご依頼の2人はしっかり閉じ込めてあります。2人のお客様は別の馬車でお待ちください」
馬車を降りた私を、気味の悪い愛想笑いをしたボスが出迎えた。
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