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105 西地区の闇(1)

 抵抗を止めた私とアレス君は、大人しく誘拐犯の命令に従って顔を袋で覆われ、両腕を拘束され引き摺られるようにして馬車まで連れていかれる。

 もちろん守護霊の5人は、犯人に向かって『何をするコノヤロー』とか『離さんか無礼者め』とかって叫ぶけど、残念ながら犯人には聞こえない。


 視界を奪われたまま馬車に放り込まれ、御者は馬に鞭を打ち教会から離れようとする。

「その馬車待てー!」と、ポートさんの叫び声が聞こえたから、私たちが拉致されたと気付いてくれたようだ。


 教会の通路から現れる私たちを待っていたポートさんなら、顔を袋で覆われた子供らしき者が2人、怪しい大男に引き摺られていたら私たちだって気付くだろう。


「ひき殺すぞ!」と、馬車の前に立ち塞がったと思われるポートさんに、御者をしている男が怒鳴った。


「サンタ様ー、必ず助けに行きます!」と、ポートさんの必死な声が聴こえる。


 無茶しないでポートさん!って私は心の中で叫んで、ケガをしていませんようにと神様に祈る。

 アレス君を殴ってポートさんをひき殺そうとするなんて、3倍、いや、5倍返しじゃないと絶対に許さないからと、恐怖心を復讐心に変えて拳をギュッと強く握るサンタ7歳。


 教会の敷地から出た馬車だけど、今日は感謝祭で中流地区も一般(平民)地区もメイン通りは馬車の通行が禁止されているから、裏通りや側道を通るしかない。

 飛ばすこともできず、ゆっくり進む馬車の後ろを、途中から他の馬車が付いてくる音がした。


 時間にして30分くらいだろうか、馬車が止まって私たちは強引に降ろされた。

 何処をどう走ったのか分からないけど、王都からは出ていないと思う。

 視界を奪われ馬車の中で両手を縄で縛られたから、私たちが魔術師であると知っている可能性がある。

 ギギギと建付けの悪そうな扉が開く音がして、何かの建物の中に連行される。


『ここは廃墟のようじゃな』と、サーク爺の声がした。


『王都の一般地区でも西側は、ちょっと治安が悪いし怪しい裏稼業の拠点があると聞いている』


『そうですわダイトンさん、この辺りは非合法の店も多く、犯罪者が逃げ込むのに都合がいい場所だと聞きましたわ』


 ダイトンさんの話に、マーガレットさんが追加情報を教えてくれる。

 この2人は、私から離れて動ける範囲内で、日頃から情報収集をしてくれてる。


 ……危険な状態であっても、私には自分の目よりも確かな情報をくれる守護霊が5人も居る。目隠しなんてほぼ役に立たない。


「この中で大人しくしていろ。騒いだりしたら殴るだけじゃ済まないぞ!」


 誘拐犯のリーダーらしき男はそう言って、私たちをドンと部屋の中に突き飛ばすとドアにガチャリと鍵を掛けた。


 ……あれ、部屋の中には見張りを置かないの?


『サンタや、犯人たちは全員が別の部屋に入ったから、話しても大丈夫じゃ』


 様子を見てきたらしいサーク爺が、大丈夫かと心配しながら教えてくれた。


「私は大丈夫だよサーク爺。アレス君は大丈夫? さっき殴られてたけど」


 守護霊の皆が心配してるから、私はできるだけ明るい声で話す。


「僕も大丈夫だよサンタさん。こんな縄なら魔法で直ぐに切れるけど、どうする? 壁だって壊せば簡単だけど?」


 アレス君は大丈夫って言いながら、頼もしいことを言ってくれる。


「う~ん、暫く様子をみよう。私たちを攫った目的とか、犯人が誰なのかを知らないと、5倍返しできないから」


「さすがサンタさん。そうだね、5倍返しが当然だよね。僕も今回は丁寧かつ念入りにお返しするよ」


 アレス君は嬉しそうに言って、屋台めぐりができなかったら、そのお返しもしなきゃねって明るく笑った。


「今日は収穫祭を見て回って、ホッパー商会で久し振りに【最速踏破者】の仲間と光猫のシリスと再会する予定だったから、夕方までには脱出しようね。

 シリスは大きくなったんだろうな。寂しがってないかなぁ・・・」


「ホッパーさんの話では、今ではシリスが【最速踏破者】のメンバーとして、立派にサンタさんの代わりを果たしてるって、手紙に書いてあったよ。

 だから王都でシリスを引き取ったら、【最速踏破者】が困るんじゃないかな? どっちがいいか、賢いシリスに訊いてみたらいいよ」


「うん、そうだね。2年間も預けっぱなしだったから、シリスに決めてもらおう」


 攫われた悲壮感もなく、恐怖心なんてさらさらなそうな会話をしながら、私たちは守護霊の皆が集めてくる情報を待つことにした。



◇◇ ホッパー ◇◇


 今日はサンタさんとアレス君が教会のバザーに出店すると聞いていたので、馬車が襲われないよう念のため護衛を2人雇って警戒させていた。

 その護衛から信じられない報告が届いたので、私は直ぐにアロー公爵屋敷へとやって来た。

 

 ……まさか神聖な教会内で襲う者が居るとは・・・油断した。


「間違いありませんホロル様。アレス様とサンタさんを乗せた馬車は、平民地区の西側にある再開発地域に入りました。

 護衛の馬車は途中で進行妨害され、犯人の馬車を見失いましたが、その先は他に抜ける道などなく、再開発地域の立ち入り禁止区域に向かったはずです」


「ほう、そんな命知らずがいたか・・・魔術師学校の教官か、魔術師協会の無礼者か・・・まあ、どんな手を使っても養子縁組などできんが、大賢者様を害することでもあれば、王様の立場が悪くなるだろう。

 しかも教会の敷地で手を出すとは、あの2人は教会の保護対象になっているから、教会も黙ってはいないだろう」


 自分の息子が拉致されたというのに、どうしてホロル様はこうも落ち着いておられるのだろう?

 怒りの感情を分かり易く表現されるアロー公爵様と違い、ホロル様は静かに、そして底冷えする作り笑顔で不快感を表現される。


 アレス君は、どうやら父親似でいらっしゃるようだ。

 上手く感情を隠し、平静を装う姿は、とても9歳の少年とは思えない。

 早々に家督相続を放棄されたが、どう考えても優秀なアンタレス様がアロー公爵家を継ぐべきだと思う。

 だからこそ、何が何でもお助けしなければならない。


 ……相手は何でもする裏家業の奴等だ。ああいう奴等は常識が通じないから危険だ。急いでくださいホロル様! 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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