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104 サンタさん、秋空にもの思う

 いつの間にか10月。

 私たちは最近、王都の教会でクズ魔核に魔力充填する方法を神父さんたちに指導している。

 お世話になった教会本部から、時間がある時に教えてねと依頼されたのだ。


 今朝は、明日から始まる収穫祭のバザーに出品するお菓子を作る。

 守護霊のマーガレットさんに教えてもらった数種類のお菓子を、アレス君とメイドのメリーさんとガンガン作っていく。


 ……お菓子作りは結構楽しいし、美味しい。



 8月にエバル教授を初めて魔術師学校にご招待した翌日、校長と副校長は、私とアレス君に卒業資格取得証明証を発行し、どうかもう学校に来ないでくれと頼んできたので、毎日が自由時間なのだ。


 私とアレス君に手を出すと、王立能力学園を敵に回すと知った校長と副校長は、他の教官に私たちには関わるなと厳重注意をしたらしい。

 でも、デスタート教官だけは納得できなかったのか、私とアレス君の連絡先であるホッパー商会王都支店にやってきて、養子縁組のいい話があると金貨をちらつかせたらしい。


 ……でもねえ、天下のホッパー商会で多少の金貨を積んだくらいじゃ、鼻で笑われるだけ。


 再び養子縁組を迫ったら、私たちの後見人に連絡すると言って撃退したみたい。もちろん誰が後見人なのかは漏らしたりしない。

 それでも時々、私たちの居場所を探ろうとする者が店の周辺をうろついているから、暫く店に来ない方がいいと支店長のドレンさんから連絡を貰った。

 

『ああいう欲に目が眩んでいる奴は、常識が通用せんから気を付けた方がええ』


『そうよねトキニさん。中途半端な権力持ちって、自分の立ち位置でしか物事が考えられないから、格下と思う者にはとことん強気だったりするわね』


 時々魔術師学校に様子見に行ってくれるトキニさんとパトリシアさんが、油断せず用心しておいた方がいいと忠告してくれる。

 


 あの日エバル教授は、私は既に高位・魔術師のレベルだし、アレス君も中位・魔術師【上】レベルに近いと校長に断言した。

 他の教授たちも、魔術師学校で教えられることは何もないから、授業料を返還し特待生扱いすべきだと副校長を脅・・・いや、意見したので、学校は授業料を返してくれた。


 私たちが売られそうになっていると招待状に書いておいたから、エバル教授が面倒ごとから助けてくれたんだと思って感謝したけど、ハハハ、考えが甘かった。

 私たちが暇になったのをいいことに、あれから教授たちは魔法教室を王立能力学園の演習場で行うよう要望し、昨日は10回目の魔法教室だった。

 私が王立能力学園に入学するまでは、学生には魔法を公開しないと決めてあるから見学は禁止されている。


 ……まあ、売られるよりいいけど、なんか予想と違うし遣り方が露骨だと思う。




 教会のバザーは年に3回あり、今回は収穫祭の期間中だから来場者も多い。

 市販のお菓子より安く値段設定してるから、子供連れのお客さんが朝から列をつくって販売開始を待っている。

 神父さんたちが、凄く美味しいお菓子が安く買えると宣伝してくれたお陰なんだけど、このままじゃ昼前に完売しそうだ。


「すみませーん、お1人さま3個までの限定でーす」


 私は列に並んでいる皆さんに向かって大声で叫び、神父さんに用意してもらったボードに【お1人3個まで!】って大きな文字で記入した。

 午前10時、販売開始と同時に飛ぶようにお菓子は売れ、11時半には完売してしまった。


 途中、貴族と思われる女性が列に割り込んだり、貴族家の子息と思われる者が10個寄越せと難癖を付けたが、アロー公爵家から来ている御者兼護衛のポートさんが、「私はアロー公爵家の騎士だ。公爵家が後援しているバザーで問題を起こす者は名を名乗れ!」と一喝して蹴散らしてくれた。


 カラになった箱や残った袋などを整理し、私とアレス君は売り上げを持って教会長の所へ向かい、メイドのメリーさんと御者兼護衛のポートさんは、荷物を馬車に運び込んでくれる。

 昼食は完売祝いを兼ねて、収穫祭に繰り出し食べ歩きをする予定だ。


「名誉教授様、特任ハンター様、たくさんの御喜捨ありがとうございます。どうか材料費だけはお取りください」


 教会長は、ずっしりと重い銅貨や小銀貨入りの袋を受け取りながら、笑顔で礼を言って、他所のバザーはちゃんと経費を引いて喜捨するのですがと困惑する。

 教会で活動する時は、教会本部で授かった教会の身分証の名を呼ばれる。

 本名だといろいろ不味いこともあるので、本部が指示を出してくれたらしい。


「私たちも貴族の端くれ、こうしてお役に立てて嬉しいです」


 アレス君は貴公子スマイルで、貴族として当然ですからと材料費を断る。


「今回のお菓子は、王立能力学園で知識の伝授をした謝礼金で賄ったので、どうぞそのままお納めください」


 私は臨時収入を使ったので問題ないですよと笑って誤魔化した。

 魔術師学部の教授たちは、1人金貨5枚(50万エーン)の授業料をくれたので、私とアレス君が金貨5枚ずつ貰って、金貨1枚で材料費を賄い、残りの金貨9枚は母様に生活費として渡した。


 ……トレジャーハンターを辞めたし、最近は男爵としてアロー公爵から頂くお金以外無収入だったから、ちょっと助かった。


 ……う~ん、そろそろアルバイトでも始めようかなぁ・・・暇そうにしてると、守護霊の5人が自分の知識を教えようと、ガンガン講義を始めちゃうもんなぁ。


 なーんて、秋晴れの空の下、物思いに耽けりながら歩いていると、『気を付けてサンタさん!』って、パトリシアさんの声が聞こえた。


 はっと我に返ってアレス君を見ると、後ろから2人の大男に頭から袋を被されそうになっており、私も左右を大男2人に挟まれ両腕を掴まれてしまった。

 前から歩いてきた2人と、後ろを歩いていた2人の男はグルだったみたいで、「急げ、このまま一番手前の馬車に乗せろ!」と、私の腕を掴んでいる男が命令した。


 馬車置き場に向かう教会の裏通路は人通りが少なく、主に馬車を使う貴族か御者くらいしか通らない。

 完全に待ち伏せされたのだと気付いたけど、護衛騎士のポートさんとメリーさんは馬車で待っている。


「アレス君、抵抗しないで」


 アレス君を殴る男を睨んで叫び、私は抵抗するのを止めた。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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