103 最初のゲスト(2)
私たち一行は、立ち止まることなく演習場へと向かって歩く。
何が何だか分からない様子の教官と学生たちは、4人の教授の後ろを、ぞろぞろとついて歩こうとする。
「これから行う練習は非公開だ。校長と副校長以外の見学を禁ずる。
もしも情報を漏らすようなことがあれば、来年度の各組織の人事異動に大きな影響を与えることになる。校長、しっかり指示を出してくれ」
エバル教授は、魔術師業界の頂点に君臨する部長教授らしく、威厳を持って脅しにかかった。
エバル教授を怒らせたら、己の魔術師としての将来のみならず、自分のせいで所属する組織に大きな影響を与えてしまう。
エバル教授の力を持ってすれば、課長クラスの首など簡単に切れるのだ。
「教官と学生は座学に戻りなさい。昼休みまで私と副校長以外は演習場の立ち入りを禁じる。命令違反した場合、教官は免職、学生は退学処分とする!」
校長は教官と学生を睨みながら、罰則を添えて大声で命令した。
座学の教室からは演習場は見えない。もしも魔法の練習が外部に漏れたら、犯人は校長か副校長ということになる。
ぼちぼち魔法を表に出していく予定だから、実際は情報が漏れても問題ない。
なにせ魔術師業界のトップが魔法を受け入れたんだから、誰も文句なんて言えないし、王太子様も私の弟子になっている。
魔法を邪道だという者が現れても、痛くも痒くもない。
そんな者は時代に取り残され、魔力量を増やすことさえできないだろう。
「サンタナリア・ヒータテ・ファイトアロ7歳です。
優秀な皆さんなら、3日くらい指導を受ければ、直ぐに魔法使いになれると思います。
あっ、練習の前に皆さんの魔力量と属性を、私の魔力属性判別魔術具で確認させてください。能力に合った練習をした方が効率的ですから」
到着した演習場で自己紹介して、私は魔力量と属性を調べると告げた。
私は全属性持ちだけど苦手な属性魔法もあるので、苦手な属性魔法の指導は、アレス君が担当してくれる予定なのだ。
「私の、私の魔力属性判別魔術具だと?」と、校長が驚いた顔で私を見る。
「あれからカラ魔核の充填を頑張って、つい先日10センチの魔核に充填できるようになったぞサンタさん」
そう言いながらエバル教授は、嬉しそうに私が取り出した魔術具の前までやって来た。
他の教授や校長や副校長は、私がリュックから突然魔術具を出したことに驚き「なんだそれはー!」と声を上げた。
「もしも皆さんに第7の属性【空間】が発現したら、私と同じ空間拡張バッグを作れるかもしれませんよ。
かなり魔力量を要するので、最低でも8センチの魔核に充填できるくらいの魔力量が必要となりますけど」
ギラギラした視線をリュックに向け、真剣な顔をして私の話を聞いている教授たちは、「おぉ、あれが奇跡の空間属性魔法か」と感動している。
私の能力を何も知らなかった校長と副校長は、当たり前のように私を受け入れている教授たちと違い、戸惑いが大きかったようで呆然としている。
「久し振りの属性判別魔術具だ。あぁ、属性が増えてないかなぁ」
そう言いながらエバル教授の後ろに並んだのは、トラフォス副部長50歳だ。
その後ろがヒョーイ主任教授47歳で、最後がチータス教授44歳である。
カラになっていた魔術具の魔核に魔力充填しながら、私は教授たちの話に耳を傾けてみる。
「これから魔法は、エバル部長だけのものではなくなりますな」
「そうですヒョーイ教授、魔法を見せられても教えることはできないと言われ続け、どれだけ悔しい思いをしてきたことか」
チータス教授は、恨めしそうにエバル教授を見て文句を言う。
「フハハハハ、此処から巻き返しますぞ。お二方。サンタさん、カラ魔核に何度も魔力充填してきたので、魔力循環の練習は要りません」
トラフォス副部長は、胸を張って宣言する。
皆さん、本当に魔法を習得したかったんだ・・・ほうほう、魔力循環が基本だってことは理解済みってことね。やる気があって何より。
「校長と副校長もどうですか? 魔力学会で測定していたとしても、今日は持ち主の私が提供するのでタダですよ」
ポカンと呆けている2人に、私は笑顔でお誘いしてみる。仲間外れは良くないもんね。それに、2人の魔力量が気になるし。
魔核の充填が終わったところで、測定を開始する。
2年前の秋から頑張ってカラ魔核に魔力を注いでいたのなら、必ず魔力量は増えているはず。
「オォーッ、前より水属性の青色が濃くなったぞ。光属性も薄い黄色から金色に近い色に変わっておるぞ!」
エバル教授を皮切りに、皆さん魔力量が増えていたようで、属性を判別する魔核の色が濃くなっていた。
王立能力学園の教授たちとは対照的に、校長と副校長の表情はどんよりしている。
……まあ、国のトップたちと比べられるのは嫌かもね。
……ほうほう、校長も副校長も4属性持ちってことは、中位・魔術師の【中】か【上】ランクってことね。でも、魔核の色はどれも薄いから使える初級魔法は半分以下だろうな。
「よし、私とアレス君も久し振りに測定してみよう」
「そうだねサンタさん。12センチの魔核に充填できるようになったから、色も変わってるといいな」
先ずはアレス君。
うん、教授たちの目が点だね。
属性だって高位・魔術師と同じ5つあるし、魔核の輝きはエバル教授よりも強く、色も濃く染まっていた。
「あれ、アレス君、7つ目の属性【空間】が少しだけ反応してる気がするけど?」
「あっ、本当だ。薄っすらだけど反応してる。やったー! 6属性になったー」
私とアレス君は手を取り合って喜ぶ。
悔しそうなエバル教授が「今に見てろよ」って負け惜しみを言いながら拳を握り締め、他の教授たちは羨ましそうにアレス君を見る。
「6属性・・・なんてことだ」と呟いた校長の顔色は、可哀相なくらいに青い。
最後に私が全ての魔核をビカビカ光らせ、苦手な土属性の魔核が少し濃くなっていた。
「これぞ天才魔法使い。皆、ちゃんと見たか? 7属性だぞ? だから私が言っただろう。1日でも早く王立能力学園に講師として迎えたい逸材だと」
何故かエバル教授が、胸を張って私の自慢をする。
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