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102 最初のゲスト(1)

 招待状を送った2日後、魔法教室にご招待ありがとう、明日お邪魔しますという返信が届いた。

 職場の仲間も数人連れて行く予定だけど、魔法は解禁してもいいのだろうかと心配する文面に、クスリと笑ってしまった。


 アロー公爵が私と魔法のことは口外禁止だと、厳しく調査団メンバーを脅していたので、きっと心配しているんだろうな。

 口外禁止の件は、アレス君が家令のコーシヒクさんに確認を取ってくれたので問題ない。


 我が家の馬車の御者さんは、アロー公爵家からお借りしている感じで、アロー公爵から命じられて、アレス君と私と家族の護衛も兼ねている。

 アロー公爵家の騎士さんだけど、私が子爵になったら私の護衛騎士として譲ってくれるらしい。準男爵家の長男で、年齢は24歳と若くて優しい。


 我が家の状況なんて、常にアロー公爵に筒抜けになってるってことだよね。

 それでも、アレス君か私が助けてと頼まない限り、アロー公爵もホロル様も勝手に手出しはしない。

 長~い鎖に繋がれている感じだ。

 王立能力学園に入学する時は、王家からも護衛騎士が就くらしい。


 ……は、ははは・・・


 アロー公爵や王太子様に頼めば、今の面倒事もサクッと解決はするだろうけど、できるだけ借りは作らない方がいいと守護霊の皆が言うから、今回の作戦を立てたって感じ。

 それに、あのデモンズには、私が直接3倍返しをすると啖呵を切ったしね。

 殴られて痛かったし、高かったお気に入りのドレスに足跡を付けられた。


 ……借りはきっちり返さねばならない。



 翌朝、いつものように壁を越えて学校に到着すると、【上位クラス】の男爵家子息の2人に絡まれた。


「今日は大事なお客様が来校される。お前たちは邪魔だ。帰れ!」


 王立能力学園の受験に2回も失敗したボンデラスが、仁王立ちして命令する。


「貴族とも呼べないお前たち如きが、お会いできる方ではない。帰らないと痛い目に遭わせるぞ」


 最近めきめき魔術の腕を上げているらしいニートダンが、短剣をカバンから取り出して脅す。


「ねえねえアレス君、公爵家の子息を剣で襲おうとしたらどうなるの?」


「勿論、警備隊に逮捕され犯罪者として裁かれる。もしも親が貴族なら、爵位を守るため息子を切り捨てるだろうね。

 それに、返り討ちにされても犯罪者を庇う者などいないだろう」


 そう言いながらアレス君は、ウエストポーチからアロー公爵家の家紋入りの剣を取り出し、犯罪者になりかけている2人に見えるよう突き出す。


「僕の名前は、アンタレス・ダグラン・アロー。魔術師学校の不正を調査するためお忍びで潜入している。

 もしも僕の正体をバラしたり、今後も無礼な態度をとったら・・・分かるよね、どうなるか。

 今日のゲストを招待したのは、僕たちなんだよ。邪魔だ、どけ!」


 いつもはキラキラの貴公子なんだけど、私を害する者に対して一切容赦しないアレス君が、何処から出したのそのどすの効いた声?って感じで2人を威圧する。


 ……あれ、アレス君を守るため魔術師学校に入学したのに、いつの間にか守られてるよ私。


「カッコ良かったよアレス君」って、私は極上の笑顔で話し掛けた。


「えっ、そ、そう? うん、これからも僕がサンタさんを守るよ」


 そう返事したアレス君は、何故か私から視線を逸らして俯き、耳がちょっと赤くなっている。どうしたんだろう?


『やはりサンタにはまだ早いようじゃ。よしよし』って、サーク爺のよく分からない独り言が聞こえた。


 ……ん、何がまだ早いの?




 ゲストの皆さんは、学校に知らせた時間通りの午前10時にやって来た。


「王立能力学園魔術師学部の皆さま、魔術師学校へようこそ」


 校長を筆頭に、全ての教官と学生が玄関まで出迎えに出て、本来なら会うこともないであろう王立能力学園の偉ーい教授たちに、姿勢を正して頭を下げる。


 教官の後ろには【上位クラス】の学生5人が緊張した表情で並び、その後ろに【一般クラス】の11人が笑顔で並んでいる。

 私とアレス君は、前に居る教官たちから見えないのをいいことに、最後尾からブンブンと大きく手を振って歓迎する。


「うむ、忙しいのに出迎えご苦労様です校長。今日という日を2年間も待っていたのです。

 午前中は座学だと聞いたので、演習場は使用してもいいのだろうか?」


「はい、どうぞお使いください。本日は優秀な学生に会うためのご訪問と聞いております。【上位クラス】の魔術練習を是非ご覧くださいエバル部長教授」


 自分をアピールしたいのか、【上位クラス】の学生をアピールしたいのかは分からないけど、王宮魔術師団から来ているサムトン副校長が、ずいっと前に出て提案する。


「いや、この学校には既に下位・魔術師に合格した者が2人居るはずだ。最も優秀な学生が同行してくれたら問題ない。

 この中に王立能力学園を目指す者が居るなら、頑張って中位・魔術師に合格しなさい。受験免除で入学することも可能だ。皆、しっかり励むように」


 魔術師学部の部長であるエバル教授が、これぞ高位・魔術師って余裕の表情で学生を鼓舞する。


「はい、頑張ります」と、皆は瞳を輝かせて返事をした。


「あの、中位・魔術師に合格したら、本当に無試験で入学できるのですか?」


 なんだか納得できないって顔をして、私たちを売り飛ばそうとしているデスタート教官が、恐る恐るエバル教授に質問する。


「はい、学園規約にも書いてありますよ。ここ54年は、受験する前に中位・魔術師に合格した者などいませんでしたが、来年は55年ぶりの快挙となる可能性がある。魔術師学校としても大変喜ばしいことでしょう」


 ニコニコといい笑顔で話す50代くらいの男性は、会ったことない人だけど、エバル教授が連れてきたんだから魔術師学部の教授だろう。


「さあ、早く演習場に案内してくれサンタさん、アレス君」


 待ちきれなかったのか、エバル教授が私たちを名指しして、出迎えた教官たちを完全スルーしながら移動を始める。


「えっ、いや、あの」って、副校長の戸惑った声が聞こえるけど、誰も立ち止まったりしない。


「お久し振りですエバル教授。皆さんいらっしゃい」


 私が笑顔で挨拶すると、喜びが爆発したエバル教授が「お招きありがとう師匠」と言って私の両手を握った。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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