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100 交差する思惑

 ◇◇ デスタート教官 38歳 ◇◇


 これは・・・今度こそ間違いなく役立つ子供だ。

 男爵家なら下位・魔術師でも渋々養子にするだろうが、子爵クラスになると出世も見込めない子供を養子にはしないし、受け取れる仲介料も半分になる。

 あれは間違いなく中位・魔術師に合格する金の卵だ。

 トレジャーハンターなど直ぐに辞めさせ、初級学校の勉強をさせる必要がある。


 祖父が本当に子爵なら、あれ程の才能がある子を放置するはずがない。

 トレジャーハンター協会が後援し囲い込んでいる可能性もあるが、先に養子縁組してしまえば私の勝ちだ。

 至急準男爵の保護者とホッパー商会の商会長と面談し、子供の将来のために養子縁組しろと脅せば……いや、白金貨1枚で納得させればいい。


 中位・魔術師に合格すれば、最低でも準男爵の爵位が貰える。

 頑張り次第で男爵まで陞爵するし、もしも高位・魔術師にでもなれば子爵だって手が届く。

 男爵家や子爵家が優秀な魔術師を養子にとれば、家督は継がせないが家のために新たな爵位を取らせて、実子や親族と結婚させ家門の勢力を増やすことができる。


 アレスは平民で男だから、女児の多い伯爵家あたりが喜びそうだ。

 サンタは準男爵家の子だから、男爵家でもいいだろう。魔術師の子を産むかもしれないと期待する家も多いから需要はある。

 急がないとシュテファン教官が、軍閥の家門に知らせて横槍を入れてくるかもしれない。


 取り急ぎ手紙を書き、顔合わせの段取りをする必要がある。

 ナバロ校長も何やら動きを見せていたから、魔術師協会に優秀な子供が入校したと知らせに行った可能性が高い。

 学歴を重んじる魔術師協会所属の貴族なら、直ぐにでも魔術師学校を辞めさせて家庭教師をつけ、中級学校を経て王立能力学園に入学させるだろう。


 他所より早く動くことが大事だ。

 アレスなら白金貨6枚、サンタでも白金貨4枚は取れる。

 親に白金貨1枚ずつ払っても、手取りは白金貨8枚だ。

 フフフ、これで中流地区に、もう少し大きな屋敷を買うことができる。


 ……魔術師協会と軍に後れをとらないためにも、同じ王宮魔術師団から来ている副校長に多少の分け前を渡し、協力させる必要があるな。


 仮にあの2人が抵抗したら、強引に隔離監禁し、養子縁組の書類にサインさせ届け出ればいい。

 親には子供が望んでサインしたんだから、早くサインしろと脅せばいいだろう。

 これまで無理矢理養子縁組させた子供も、今では貴族として立派に王宮魔術師団で働き、実の親とは縁を切っている。


 ……人間だれしも、地位や権力を手にすれば、爵位も継げない家のことなど忘れるものだ。




 ◇◇ ナバロ校長 58歳 ◇◇


 しまった!

 魔力学会終了後に、上司のデモンズ40歳から、王様の魔術具に魔力充填した子供が入学しようとしたら、必ず阻止しろと命じられていたのに、まさか今年入学してくるとは・・・

 子爵の孫だから初級学校くらいは卒業して入学するだろうから、早くても3年後か4年後になるだろうと聞いていたので油断した。


 何があったのかは分からないが、デモンズの手足として動いていた男爵が、王太子様から罰せられ準男爵になった件に、2人の子供が関わっていたらしいと同僚から聞いていたが、あれは、あの2人は普通の子供ではない。

 トレジャーハンターらしいが、王様の魔術具に魔力充填していることからも、高位貴族がバックに居ることは間違いない。


 上司命令でも、誰を敵に回すか分からない。

 私は細く長く魔術師協会で仕事をしていたいだけだ。

 爵位も子爵で充分だし、命令をきいて爵位を失うような下手は打ちたくない。

 既に入学した優秀な子供に、難癖をつけて退学させるなんて、同じ魔術師としてやりたくないし、すべきではないと思う。


 同じ派閥とはいえ、デモンズの勢力は弱まっている。

 協会長であるアロー公爵様が、デモンズ派閥の者を地方に飛ばしたり、閑職に追いやっているらしいと、アロー公爵派の友人が教えてくれた。

 2年前まで在籍していた部署の上司が、たまたまデモンズだっただけで、同じ派閥に無理矢理入れられてしまったが、私はあの方が好きではない。


「どういうことだ! 何故確認しなかった!」


「申し訳ありません。王様の魔術具に魔力充填した男児と女児という情報しか頂いておりませんでしたし、3年後くらいに入学すると聞いていたので、気付くのが遅れました。せめて名前だけでも・・・」


「言い訳するな! いいか、必ず退学させろ! 魔力量が多いだけのクソガキが、下位・魔術師に合格するなど許されない!」


 相変わらず、自分のミスは他人のせいにし、思い通りにならないとヒステリックに怒鳴り散らす小者だ。

 どうやらあの2人の魔術師としての才能を、何も知らないようだ。

 下位・魔術師に合格済で入学しているなどと、決して口にはできない。

 

「既に入学しましたので、退学は難しいと思いますし、王宮魔術師団や軍の教官が、既に目を掛けているようなので、強引に動けば魔術師協会が悪く言われる可能性がありますデモンズ様。

 初級学校を卒業していないので、軍にでも就職させればよろしいのでは?」


「フン、魔力量が多いだけで、王立能力学園に入学するとほざいていたのか。

 初級学校も卒業していないマヌケだったとは・・・まあいい、私が魔術師試験の試験官になれば、絶対に合格させることはない。フン」


 7歳と9歳の子供相手に、なんて大人気ないんだろう。

 中位・魔術師試験の試験官は最低でも3人は居るのに、そんな不正ができるとは思えない。

 実力のない者を合格させることもないが、実力のある者を不合格にするほど、魔術師協会の上層部は腐ってないぞ!


「他の学生より厳しくし、訓練だと言ってケガをさせても構わない。

 トレジャーハンターとして調査団に加わったくらいで、ハンター協会もちやほやするのが悪い。いつか私が学校に寄って、直接指導してやろう」


 下卑た笑みで子供をいたぶる場面を想像している男に、心の中で『この下衆野郎!』と毒を吐き、失礼しますと言って執務室を出た。


 ……実家が10大伯爵家のひとつで次期領主候補だから、アロー公爵はデモンズを王宮担当にしたのだろうか? あの厳しいアロー公爵が何故無能を?

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

いつの間にか100話目に突入しました。これからも応援いただけると嬉しいです。

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