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召喚士の休日  作者: ittpg(三崎 まき)
第8話 王都の黄昏
99/228

10.傭兵契約 (2) ☆


 ※


挿絵(By みてみん)


 ザヅツの説明が始まった。

 彼が傭兵部隊の増強を図った理由は単純だった。大平原の北には、『ネミスの森』と言う広大な森が広がっている。そこに亜人たちが押し寄せた。もともと亜人たちの地は、それよりさらに北、人が到達したことのない土地だった。そこから南下してきたのだ。森の住民たちは逃げ出さざるを得なくなった。リリィの母を含む、西方の民族衣装を着た民も森を追われた者たちだった。その対策に、王国の正規軍を割かれているのだ。ネミスの森は、大平原の端から端まで跨る。それだけの範囲をカバーするには、相当の戦力を要する。結果、王都周辺を含むその他の地域を守る部隊が手薄になった。そのため、手早く戦力となる傭兵部隊の拡充を図っているのだ。王都の北西、ネボの丘に登った時に見た、街道を北進する王国の軍勢は、亜人対策の増援、もしくは交代要員だったのかもしれないとリリィは思った。


「亜人の活発化は辺境でもそうと聞いたわ。そっちはどうなってるのかしら?」

 マーロン山脈の向こう、東部辺境最北端の村で一年前、自分は亜人の軍団を全滅させた。その話は王国に届いていないのだろうか。そしてあの村は今、どうなっているのか。尋ねるとザヅツは答えた。

「そうだね。辺境では、まだ住民たちの自衛で踏みとどまっていると聞いている」

 彼の得ている情報が正確ならば、召喚士の村は無事なのかもしれない。そして自分が術で亜人の群れを焼き払ったことは、村人たちにより秘匿されているのだろう。安堵したリリィは、「それにしても……」と話題を戻した。

「王国は二百年間、戦争していないでしょう?平原に大軍は必要ないと思うけど」

 するとザヅツは、「まあ、そうなんだが……」と言葉を濁した。

「……とは言え、大なり小なりの秩序の乱れはいつの時代でもある。野盗なんかのアウトローはそこかしこにいて、今は特に南部や南西部の集団がやっかいだ」

 大平原南部の治安については、ヤクトの街で出会った運び屋の女性エステッカも語っていた。ザヅツは王都の南に描かれた、岩山のような絵を指さした。

「ここに鉄鉱山がある。側のカムジャンと言う町を中心に、ならず者たちが幅を利かせている。彼らは旅人を襲ったり、街道を通行する者から勝手に通行料を徴収したり、鉄鉱山で働く者を集めるため人身売買をしたり……町でも詐欺、盗み、恐喝……逆らう者には暴行を加えるなどやりたい放題だ。彼ら同士の縄張り争いでは死者も出ていて、住民を不安に陥れている。放置していては王国の沽券にかかわる」

 ただそれでも、そこまではまだザヅツの表情に余裕があった。自分の力で何とかして見せるという自負も感じた。亜人の脅威は深刻だが、それには正規軍が対応している。話しぶりに、自分の役割とは切り離している感も窺えた。表情が険しくなったのは、「ただ、個人的に気になっているのが……」と切り出した時だった。彼は大平原の北東に指を置いた。


「……()()だ」

「教団?」

「そうだ。正確には『北方至聖教団』と言う。このあたり、クレアル地方で勢力を伸ばしている」

「聞いたことないわね」

 リリィが言うと、ザヅツは二度小さく頷いた。

「元はこのパイエンと言う街を門前に構える、一修道院を中心とした土着信仰だった。だが近年、信者を増やしてクレアル地方全体に広がっている。リリィ君の知識は文献で得たものみたいだし、東国にはまだ広まっていないから、知らないのも無理ないかもしれないね」

 彼は身を乗り出していた。リリィは思い出した。


(何かの信仰の証かしら……)


 ヤクトの運び屋・エステッカが、胸のネックレスに手を当てた。その時、自分はそう思った。もしかすると、彼女もその教団の信者なのかもしれない。


「今のところ表立った敵対姿勢はないが、武装集団を整備している。王国には亜人対策のためと説明しているが、体制に不満をもつ地主や地方の有力者と繋がっているという情報もあり、油断できないと考えている」

 そして彼は「実はね……」と言いながら、乗り出していた身を引いた。コップの水を喉に送り込むと、幽霊譚でも語るような表情で語った。


「『死神』……と呼ばれる謎の人物が東部で跋扈している」

「死神……?」

「そうだ。漆黒のローブにフードをかぶり、大鎌を振るう謎の人物だ。背後関係が不明だが、僕は教団が後ろで糸を引いているのではと疑っている」

 彼によると、『死神』は三月(みつき)ほど前から現れだした。単独、あるいは十名ほどの手勢を連れて、東部を守備する王国の部隊を悩ませている。圧倒的な戦力で攻めてくるわけではなく、ゲリラ的に部隊を襲っては二、三名を死亡または負傷させて消える。被害が大きくないだけに王国の中では優先度が下げられているが、彼は問題視していた。

 そこまで語り終え、彼は立ち上がった。怖がらせるような表情は和らいでいた。


「……とまあ、王国の現況はざっとこんな感じだよ。君たちは傭兵部隊の一員として、平原内の治安維持に協力してもらいたい」

「わかったわ」

「時間をとらせて悪かったね」

 エンベロペがいくぶん赤みがかっていた。リリィは椅子を引きながら「構わないわ」と応じた。

「僕は仕事が残っているのでここで失礼するよ。馬車はそのまま待たせてある。行先は伝えてある。そこでケスランと言う男に会ってほしい。君が今日から率いる隊の、今のリーダーだよ」


 そうなのだ。リリィは『中隊長』として王国に編入された。すなわち率いる隊がある。その現在の長がケスランと言う男なのだろう。彼女はその彼から中隊長の地位を引き継ぐ必要がある。いや、『引き継ぐ』という言い方は柔和に過ぎる。実態は男をリーダーから引きずり下ろし、女子供に明け渡させることになる。身の毛のよだつような初仕事だが、リリィは泰然自若だ。そんな彼女の様子を見てハルは思った。ガタガタ言う奴がいたら、コイツなら二、三人殺してわからせそうだな……と。


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