8.王城へ (1)
「やれやれ、闘技大会で死人を出して始末が大変だよ。事故と言うことにしておくけどね」
ザヅツとリリィたち三人は、馬車に揺られていた。
車はザヅツが手配していた。幌の中、右奥でリラックスした姿勢の彼はボリボリと頭を掻いた。リリィはその向かい、隣にシール、そしてザヅツの横にはハルが着席していた。彼女は背筋を伸ばし、手を腿の上で重ね、人形のごとく固まっていた。シールはうなだれているものの、いくぶん落ち着いていた。
闘技場では威厳を示していたザヅツだったが、部下の目が消えてからは、以前駅で会った時のような気さくな態度だった。
「また会ったね。お嬢さんたち。リリィ……君だったっけ?」
「ええ」
「ずいぶん腕の立つまじない師だね」
(私はリリィ。まじない師としての見聞を広めるため、東国から来たわ)
彼の口調には、目いっぱいの皮肉が込められていた。リリィは悟った。あの時の紹介が口から出まかせだったのは、とうに見抜かれていたようだ。
「あらためて自己紹介するよ。僕はザヅツ=デヴォーウト。こう見えても、王国の傭兵部隊を管理する役人だ。とは言え、私自身に戦闘の心得はない。リリィ君の腕前は見せてもらったよ。いま襲われたらひとたまりもないね」
彼は肩をすくめ、「あ、観戦は奥の扉の覗き穴からしていたよ。リリィ君は探していたでしょう?」と付け加えた。どこから闘いを見ていたのか、疑問に思ったことも気付かれていたらしい。
そしてリリィも、ザヅツの事情を察した。王国は、軍備の増強を画策しているに違いない。兵卒なら金で集められる。だが指揮官クラスとなるとそうはいかない。適性を見極め、試す……『人材の発掘』と言う過程が必要だ。そこで手っ取り早く闘技大会を催し、その優勝者と言う権威付けで統率させようとしているのだろう。
「そして……ハル君とシールちゃんだったかな?おふくろの下宿の住み心地はどうだい?」
「へ?」
急なザヅツの振りに、固まっていたハルが素っ頓狂な声を上げた。
「おふくろって……」
ハルは……いやリリィも、シールも、同じ女性を思い浮かべているだろう。そしてその容姿を、馬車を共にするこの青年に重ねているに違いない。
「あれ、どうしたんだい?君たちはエレナ=デヴォーウトのアパートに下宿してるんだろう?あ、誤解しないでくれたまえ。僕はあくまで一市民として、覚えがある下宿を紹介しただけだからね。決して民間人と癒着しているわけではないよ。賄賂も受け取ってないからね」
ひとりで話を進めるザヅツに、リリィは噴き出した。つられてハルも、シールも。幌の中が少女たちの笑い声に包まれた。何がウケたのかもわからず、ザヅツは困惑していた。
「……で、これからどこに行くんだ?」
笑い終わり、涙を腕で拭ったハルがザヅツに尋ねた。
「どこって……もちろん、僕の仕事場さ」
「仕事場?」
「王城だよ」
「!……」
ハルの緩んでいた表情が引き締まる。
「王城ってことは……」
「……エンベロペの中に入るわけね」
「マジかよ!」
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