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召喚士の休日  作者: ittpg(三崎 まき)
第8話 王都の黄昏
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7.闘技大会! (2) ☆


「我が名はマーリック。王国の秩序を乱す無法の(やから)に天罰を下す」


 名乗った赤毛は兜をかぶり、背中の剣を抜いた。得物は幅広の両手剣。対するリリィもロッドを体の前で構えた。その所作。


(両手剣の相手との対戦は経験があるな)

 マーリックは半眼で敵を観察した。

(さっきは手ぶらで立ち会った。相手を誘い出すためだろうが今度も手のロッドはフェイントだ。初撃は必ず腰の長剣で来る。まともに突っ込めば、あの大男の二の舞だ)

 彼は出方を探った。敵は動かない。動かないが、ビリビリと大気を切り裂く闘争本能は伝わる。

(あの剣のスピード、間合いに入れば回避は難しい。さっきは大雑把に振り回して足首を切断したが、あれは相手の油断があってのこと。本気ならもっと緻密に来るはずだ。どうするか……)

 マーリックはわずかに剣を傾けた。リリィの体が反応した。

(今だ!)

 彼は一歩突っ込み、すぐさま左にステップした。


「グワッ!」


 一瞬の出来事だった。リリィが腰から剣を抜き、マーリックに投げつけたのだ。回転しながら中空を斬る長剣は、肩から上腕部を覆う防具ごと、彼の右腕を切り裂いた。幸い致命傷には至らなかった。踏み出した最初の一歩がフェイントで、左に避けたからだ。そのまま突っ込んでいれば、剣は彼の胴を上下に分けていただろう。


「ハア、ハア……」

 瞬きするほどの出来事で、すでにマーリックは肩で息をしている。


(まさか投げつけてくるとは!しかもなんという切れ味だ!……腕をやられたが、女の得物をふたつからひとつにできた。これは大きい。考えるべき選択肢がグッと減る)

 リリィはロッドを握っている。片手でどうやってふたつの得物を使ったのか。

(剣を投げる時にロッドを右足の甲に立てた。バランスを保って倒さず、投げたあと握り直した……そしてやはり剣は補助。本命はロッドか)

 マーリックは(つか)に力を込めた。

(傷の痛みで多少パワーは落ちたが……女、初戦で男を殴り殺したのは失敗だったな。あの打撃は手加減なしのフルパワーだった。頭部の潰れ方でお前の腕力は計れた。いくぞ!)

 彼が前進した。リリィがロッドを振りかぶった。マーリックはフェイントアクションも計算に入れていたが、相手は真っ向勝負で来た。

(そう来たなら受け止めてやる!)



挿絵(By みてみん)


「ぐっ……!」


 耳を聾する金属音。全身全霊を込め、彼はロッドを剣で止めた。

(な、なんて力だ……こんな小娘が片腕で……人間とは思えん……ま、まさか……!)

 リリィの脚が動くのが見えた。

(まずい!)

 あらん限りの力でリリィを押し返し、再び間合いを取った。


 暑さの中……

 汗ひとつかかず、息すら切らさず、平然とロッドを構える眼前の少女。一方、自分の鎧の中は蒸れるほどだ。彼は口惜しかった。手にする両手剣。彼女は何の防具も着けていない。自慢の得物の切っ先が、あの体のどこでもいい。かするだけで重傷を与えることができる。ほんの、ほんのわずかでいいのだ。なのにそれができない。衣装にすら届かない。もどかしい。

(鬼神か……)

 対峙する少女の姿が、彼には神話の中の荒ぶる神に見えた。隻腕の彼女が、見えぬ幾本もの腕を振るい、何千もの小鬼を従える。そしていつ訪れるとも知れぬ滅びの時まで、無慈悲に殺戮を繰り返す。そんな存在に。彼の眉間に焦りが浮かぶ。


(ダメだ……攻撃にはあと数回耐えられる。だが勝ち筋が見えない)

 脳裏に、頭を潰された大男の死体が浮かぶ。自分もそうなるのか。それとも『降参』と言う屈辱に甘んじるしかないのか。

 少女が半歩前進する。また半歩。後退する余地はある。だがそうしたところで、敗北までの時をわずかばかり引き延ばすだけだ。距離三ルーテ、二ルーテ……少女がロッドを振りかぶる。

(やられる!)


 だが、その時。


「そこまでだ!両者収めよ!」

「!?……」


 声はマーリックの背後からだった。リリィの足が止まった。視線を外し、苦虫を噛む。再度響く、音吐朗々たる声色。


「女!理由なき殺人は王都では死罪もあり得ること、知っての行いか!?」


 ふん……不満そうに鼻を鳴らしたリリィが腕を開いた。

「あの男の棍棒を食らってたら私が死体になってた!正当防衛よ!」

 戦闘態勢を解く。そうしてようやくマーリックの(いまし)めも解かれた。彼は振り返った。奥の扉に姿を現す声の主。上級官吏の衣をまとう長身。理知的な顔には眼鏡。そして人目を惹き付ける、青みがかったウエーブの銀髪。


「あいつ!……」

 ハルが叫ぶ。顔を覆っていたシールも両手を降ろす。

「ザヅツ様!」

 運営能力を失っていた審判役の役人が目ですがる。

「……………」



挿絵(By みてみん)


 現れたのは……

 王都に着いた日、案内所で下宿を紹介してくれた男、ザヅツ=デヴォーウトだった。彼は部下の役人にもマーリックにも目をくれず、厳しい視線をリリィに向けた。

「王国としては約束どおり、闘技大会の優勝者を王国軍へ編入し、中隊長の地位を与えねばならん。承諾するか?」


「待ってくれ!!」


 遮ったのはマーリックだった。

「勝負はまだついちゃいねぇ!」

「いいや!」

 食い下がるマーリックを一喝し、ザヅツはリリィを指さす。官服の裾が開く。闘士の野心を遮るかのように。

「この女が本気を出していたら、お前は二度死んでいる」

「うっ……」

 マーリックが言葉を呑み込む。ザヅツが言う『二度』がいつのことかはわからなかったが、自分がこの少女に勝ち目がないことは、彼自身が痛感していた。

 そしてリリィも思った。ザヅツはいつから試合を見ていたのか。彼を背にしたマーリックはともかく、自分からは彼が見えていてもおかしくない。だが気付かなかった。勝負に集中していたからか。リリィはザヅツの目を盗んで背後を探った。闘技場の奥に、三階建ての石造りの建物がある。窓はある。だがあそこから見ていたなら、このタイミングで移動してはこれないだろう。近目ゆえわからないが、扉に覗き穴でもあるのか。

 そして優男風のザヅツ。体格からして武闘に長けているとは思えない。そんな気配も感じない。だが戦況を的確に把握する能力は持っているようだ。彼が指摘したとおり、リリィは手心を加えていた。第一試合で相手を殺したことにシールが動揺したからだ。最初に投げた剣はわざと外したし、マーリックがロッドを受け止めた時は、押し込まず、あえて組み合うままにした。


(よく見てたわね……)

 口には出さなかったが、うつむいたリリィの苦笑いは、その言葉を声より雄弁に語っていた。彼女は足元をサンダルで二、三度ならしたあと、半身になってロッドで後方を指した。そこには、試合の行く末を見守っていたふたりの少女がいた。

「あの子たちも一緒なら!いいかしら?」

「えっ、マジ?」

 ハルが目を点にする。ザヅツが一瞥する。

「いいだろう」

「なら承るわ」

「おいおいおいおい!」


 ザヅツは大きく息を吐き、咎人(とがびと)を詮議していたような目を緩めた。そして部下に命じた。

「……規則文の改定が必要だな。次までに準備せよ」


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