5.落ちぶれた道場 (1)
ナカ=サランの道場は、王都の西のはずれにあった。
このあたりまで来ると、建物は低く、まばらになり、また木造の家屋も混ざるようになっていた。通りに石畳はなく、空気もどこか埃っぽい。道行く人々も、街相応の身なりの者が多い。
そんな中でも、道場の建物は異彩を放っていた。平屋の石造りで、周囲をレンガ積みの塀が覆っている。背丈より高い門柱のあいだで、ナカがハルをうやうやしく出迎えた。彼はハルを敷地内に案内した。リリィとシールがあとに続いた。リリィは、ゆうべ買った西方の民族衣装を着けていた。
中には、家屋に繋がった道場があった。射手の立つ射場は板張りで、屋根があり、あとは屋外だった。奥には人に見立てた木製の的木が並んでいた。距離は二十ルーテほど。また隅の方には、半分ほどの距離の場所にも的代わりの杭が立っていた。その杭の手前に子供が五人。全員、シールより幼そうな男の子だった。
「ガキばっかだな」
ハルが言うと、ナカはうなだれた。
「今、生徒は子供しかおりません……」
少年たちは、現れた三人組に不審の目を向けた。こまっしゃくれた、ひと癖ふた癖ありそうな面構えばかりだ。ただ、金を払って弓を習わせているだけあって、身なりはしっかりしていた。それなりに裕福な家庭の子たちなのだろう。
ナカは、そんな子供たちにハルを紹介した。
「こちらが新しい師範、ハル先生だ」
「へぇ、女なんだ」
最年長か、ひときわ小生意気そうな少年がハルを見上げた。ナカが「こらっ、先生に失礼な口をきくな!」と叱った。堪えた様子はなかったが、ハルは気にも留めず、ニヤリと笑った。
「ガキんちょ、生意気な口を利くのはこれを見てからにしな」
ハルは背の矢籠から矢を取り出した。三本だ。そして番える。少年たちは、彼女の行動の意味が理解できないようできょとんとしていた。
シュッ……
矢が風を切る。弦の振動が伝わる。ほぼ同時に、タァンと命中音が道場に響いた。ハルの放った矢は、右端、中央、左端、離れた三本の的木に突き立っていた。音はひとつしかしなかった。同時に命中したからだ。茶化していた子供たちの目が、たちまち驚愕と尊敬のそれに変わった。
「す、すげぇ!」
「マジか!」
「信じらんねぇ!」
残身の姿勢を解いたハルは、子供たちに不敵な笑みを浮かべた。
「――こんなふうにやってみたいか?」
「やってみてぇ!」
「どうやったらできるんだ!?」
「教えてくれ!」
ハルはたちまち子供たちの輪に取り込まれた。見上げる目は輝いている。
「やっていけそうかしら?」
リリィが問うと、ナカは「もちろんです」と答えた。その目は潤んでいた。
「言うことを聞かない子供たちの心を一瞬でつかんでしまうなんて……正直、道場の運営に自信を失いかけておりました。でも、彼女がいればやっていけそうです」
そして彼は「情けない話ですが」と付け加えた。
「シール、ハルに付き添っていてくれる?私は少し周辺を散策したいわ」
「うん!」
大人気のハルに、シールも嬉しそうだ。「ハルが子供たちを殴りそうになったら止めてあげてね」とリリィが冗談めかしに言うと、シールは「ハルはそんなことしないよ」と笑った。
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