4.繁華街での騒ぎ (1) ☆
西の地平に日が落ち、王都での最初の夜を迎えた。リリィたち三人は夕食を終え、繁華街を歩いていた。昼間、下宿に向かう途中で見つけた賑やかな通りだ。人混みでは邪魔になるため、リリィはロッドを持たず、剣だけを提げていた。ハルとシールは手ぶらだった。
そこはまるで、祭りの会場だった。店舗の前には食料品、衣服、装飾品……様々な商品を扱う屋台が並ぶ。吊り下がる明かりが連なって作る光の道は、人波を流す川となる。
そしてそこを流れるのは、仕事から解放された人たちの笑顔。酔ってはめを外すのもご愛敬だ。貧富の差はあれど、身分の差はここでは感じられない。様々な装いの人たちが入り乱れ、酒食に興じ、消費する。
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「あっ……」
リリィが立ち止まった。そこは雑貨屋だった。店先に並んでいるのは、指輪やイヤリング、ネックレスから帯やスカーフなどの装飾品。また衣装掛けには、色とりどりの布服が下がっている。ワンピースやブラウス、スカート……全て女性向けだ。そしてリリィが見つめるのは……
「わぁ、かわいい!」
シールも気付いたようだ。それは店先に吊るされていた、一着の純白の布衣。黒の太い腰帯に、それを彩る精緻な刺繍の飾り帯。
「この服知ってんのか?」
物珍しそうなハルの目にリリィが答える。
「ええ。これは西方の民族衣装。私も以前着ていたわ」
「へぇ、そうなんだ」
「リリィにあいそう!」
シールが声を上げた。昼寝して、リリィの『お姉ちゃん設定』はどこかに飛んだのか。
「西方、って言っても東国から見た西だからね。ここからなら、ちょうど真北くらい。大平原の北には広い森があって、そこに住んでいた民が着ていた衣装よ」
彼女のそれは母の形見だったが、野盗との戦闘で返り血を浴びて汚れたため、アレスのところに置いてきてしまった。
そしてシールも、ハルも、リリィが『着ていた』と過去形で表現したことに気付かなかった。その民はもういない。森のさらに北、人が到達したことがない土地から押し寄せた亜人たちに追われ、散りぢりになってしまった。彼女の母もそうして森を追われ、東に流れ着いた者のひとりだとリリィは認識していた。
「……………」
その衣装は、彼女の時を遡らせる。
母との思い出は、概してつらく、鬱然とした色に染まっていた。命の恩人アレスは、森の孤独の中に置いてきてしまった。そして召喚士の村の、あの少年……
「あたいらも替えの服や肌着を買わないとな。帰りに寄っていこうぜ」
無意識のうちに、彼女は衣装に手を掛けていた。ハルの声に、リリィは腕を引いた。
「そうね、そうしましょう」
リリィはもう一度その衣装に目を置いたあと、その場を離れた。
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