4.トゲトゲ魚 (2)
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市を離れた三人は、照り付ける太陽を背に駅を目指した。
「おうとまでは、ふねで行けないの?」
シールが尋ねた。彼女の疑問ももっともだ。港町・ポートランダは中央大平原の東端。王都は大平原の中央、やや西寄りで、ここからはまだはるか西方だ。海は続いているのだから、船で王都の近くまで行けないのかと言う問いは自然だ。
「じょ、冗談じゃねぇ!」
反対側を歩いていたハルが声を荒げた。シールは手のひらを左右に振ってハルをなだめた。そして少女の疑問にはリリィが答えた。
「この港から西は『荒れの大洋』って呼ばれてて、常に大風が吹き荒れてる。大型の船でも風と波に翻弄され、思ったとおりに進めない。本で読んだところでは、過去に何人もの冒険家が挑んだけど、良くて追い返され、運が悪ければ船を沈められ命を失い……まだ誰も航海に成功していないらしいわ」
「そうなんだ……」
「歩いて行ったらどれくらいかかるんだ?」
今度はハルが尋ねた。リリィが「距離は二百カロルーテ。十数日はかかるかしらね」と答えると、ハルは「うげっ、それもたいがいだな」と仰け反った。
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左右の建物が低く、まばらになり、視界が開けると、ほどなく前方に駅の看板が現れた。大通りの石畳はそこで終わり、道行くものを大平原に放り出す。
街道の終着点であるこの駅は、規模も大きく、すでに数台の乗合馬車が控えていた。土がむき出しの空間を、小屋や待合のベンチが取り囲んでいる。ベンチでは幾人かの商人や旅人が腰掛け、談笑している。馬車の出発を待っているのだろう。脇に置いた背負子や背負い袋は、仕入れた商品で膨らんでいる。
「王都行きに乗りたいんだけど」
案内小屋でリリィが告げると、瘦身の男性は「あいにく」と首を振った。
「南街道経由の直行便はついさっき出たばっかりだ。次は五日後。急ぐなら、クレアル地方行きに乗って、ヤクトの町で乗り換えるといい」
『南街道』は、ポートランダから海沿いに王都まで続く街道だ。距離的には最短で、馬を替え、夜通し進む特急便なら四日で王都に到着する。
ただ、南街道沿いには大きな町がない。海から吹き寄せる強い潮風と、それが巻き上げる砂のせいで、作物が育ちにくい。途中にはラダナン湿地と言う広大な湿地帯があり、街道沿いには貧しい町や村がまばらに点在する程度だ。必然的に治安も良くない。それゆえ利用客も多くなく、便数が少ない。
一方、『クレアル地方』は、大平原の東北に広がる台地の呼称だ。マーロン山脈に降り注ぐ雨が育む高台は緑豊かで、周辺の平地も含め、農作物が豊かに実る。人口密度も高いため、ここポートランダとのあいだの定期便は多い。男性の提案に、リリィは「そうするわ」と返答した。
「お嬢ちゃんたち、三人かい?」
男性は目でリリィたちを数えると、離れたところにいる御者らしき男に声を張り上げた。
「あと三人!行けるかい!?」
その声に、御者は両腕で丸を作った。
「あそこの四頭立てね。特急便だよ。ヤクトまでひとり八千ソリタ。君らで満席だから、すぐ出させるよ」
「ありがとう」
礼を言って金を支払うリリィのそばで、ハルが「たっか」とつぶやいた。




