表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚士の休日  作者: ittpg(三崎 まき)
第3部 第7話 西へ
77/228

4.トゲトゲ魚 (1) ☆

 翌朝、朝食を終え宿を出た三人は駅に向かった。

 陸の上で一晩寝て、ハルはずいぶん復活したようだった。船上での四日間を取り戻すかのように朝飯をバカ食いし、ご満悦だ。ゆうべはくたびれていたシールの表情にも笑顔が戻った。



挿絵(By みてみん)


 港町は朝から賑わっていた。

 磯の香り漂う石畳の目抜き通りは、街の住民だけでなく、商人や、近郊からやって来た買い物客でごった返していた。両側には市が並び、売り買いの声が飛び交う。海の際だけあって、商いの品は魚介類が大半を占める。獲れたての生の魚のほか、保存のきく干物のような加工品も多い。



「うわっ、何だこの真っ赤な魚は!げげ、こっちのはトゲトゲじゃんか!」


 お上りさん丸出しのハルの反応に、売り子が失笑した。日焼けした、恰幅のいい婦人だ。

「片腕の魔法使いにアーチャーにかわい子ちゃんの三人組かい?東から来たのかい?」

 婦人はにこやかに三人を見並べる。リリィを『魔法使い』と言ったのはおべんちゃらだろう。今の世の中、ロッドを手にしているからと言って、その者を本気で魔法使いだと思う者はまずいない。

(まほうつかいはシールなのにね!)

 『かわい子ちゃん』と呼ばれた三人組のマスコットが、誇らしげにリリィに目くばせした。リリィは微笑むと、「しーっ」と立てた人差し指を唇に当てた。


「ザカヴァから来たぜ」

 ハルが答えると、婦人は「へぇ!そりゃ(おか)の中の方だねぇ!」と言ってエプロンで手を拭いた。近くの漁村から、朝獲れた魚を持って来ているらしい。その奇抜な色形の商品は、湖や川の魚しか見たことがないハルを驚かせた。シールも、棚に並ぶグロテスクな様相の生き物を、口に手を当て覗き込んだ。

「お、おいしいのかな……」

「いやそれ以前に食えんのか?こんなん()()じゃんかよ!」

 リリィ自身、文献では知っていたものの、実物を見るのは初めてだ。ハルの大声に、周囲の客たちが失笑した。売り子の婦人も、わっはっはと豪快に口を開けた。

「お嬢ちゃん、食ってみな!頬っぺたが落っこちるほど美味いから」

「いやいやいや、食えってそもそもこいつらどーやって料理すんだよ?」

「どうやっても何も、煮るなり焼くなり、でも一番おいしい食べ方は生だね」

「げえっ!生?海の魚は生で食えんのか?腹壊さねぇか?」

「大丈夫大丈夫。新鮮な海の魚は生で、ちょっと塩を付けて食べるのが一番美味いんだよ」

 ハルの素直な反応が婦人のお節介心に火を着けたらしい。彼女はトゲトゲ魚のうち、売れ残りそうな小さなものの頭をナイフで切り落とした。さらに棘とひれを取り、腹を裂いてわたを抜くと、瓶詰の塩を振りかけてハルに渡した。

「皮むいて食べてみな」

「お、おう……」

 (ひる)みながらも、この程度でビビっていては名折れと思ったのか。シールが止めるのも間に合わず、ハルは皮ごと口に放り込んだ。そして神妙な顔つきで、四回、五回と咀嚼した。その顔を、制止し損ねたシールが心配そうに見つめた。ゴクッと音がして、ハルの喉がヘビの腹のようにうねった。

「う……」

「う?」


「うめぇぇぇぇーーーーーーっ!!」


 まぶたをつむってハルが絶叫する。

「おいしいの?」

「ムチャクソうめぇって!こんなん食ったことねぇよ!いま腹パンパンなんだけどな!それでもうめぇんだよ!」

 リリィも興味がわいたようだ。「私たちの分も切って頂戴」と銀貨を差し出した。

「俺が金を払うから、こっちの魚も食ってみな」

「俺も食わしてやるよ!」

 いつしか三人の周りには人だかりができ、婦人に金を払って買った魚を次々と三人に食べさせた。一口食べるたび、ハルは感嘆の声を上げ、皆を笑わせた。

「かーっ、こんなにうまいもんが食えるんなら、海も悪くねぇな!」

「旅の途中に食べられる干物を貰いましょう」

「おうおう!」

 それからまた婦人と野次馬たちのおすすめ合戦が勃発し、ハルは麻袋いっぱいの食料を持たされることになった。

「とんだ見世物になっちゃったわね」

 リリィはシールと顔を見合わせ苦笑した。



 ※


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ