4.ロッドがいい! ☆
「おっ、久しぶりの民家だな」
手綱を引いていたハルがシールに声を掛けた。前方、眼下の森のそばに、一軒の石造りの家が見える。ハルは『民家』と表現したが、単なる住居にしては立派な造りだ。
坂を下り切ると、掲げられている看板が目に入った。二重の円の上、交差する剣と槍の意匠。
「武器屋だな。リリィ、ちょっと寄っていっていいか?弓や矢尻でいいものがあったら物色してぇ。金もあるしな」
ニヤけながらハルは腰の巾着を叩く。「いいわよ」とリリィも答えた。
「シールにも護身用の短剣ぐらい持たせたいわね。ナイフじゃ心もとないから」
「あたしはリリィみたいなロッドがいい!」
ロバの上から幼い魔導士が反論した。魔法を操る者の端くれとして、「らしい」得物を手にしたいのだろう。それを聞いたハルは、リリィのロッドを指してハハハと笑った。
「シール、こいつのやつは魔法関係ねーって。こいつは『殴り魔導師』だから」
『殴り魔導師』とは、魔導の者であるにもかかわらず、それを駆使せず腕力にモノを言わせる手合いを指す言葉だ。揶揄にも使えるし、本職以外の技能に長けた者に対するちょっとした敬意を込めて使われることもある。リリィは内心自分を嗤った。ハルには『ロッド使い』やら『殴り魔導師』やら、好きなように言われている。当たらずとも遠からず。抗弁する気も起きない。
そしてこのロッド―――
思えばこれは、初めての任務成功報酬としてマクベスから下賜されたものだった。彼は「ロッドを賜ろう」と勿体つけたが、正直何の魔力もない。ハルが言ったとおり、ただの金属の棒だ。それをリリィが改造した。打撃力が増すよう、先端に鋼の塊を付けた。もう一方の端は槍として使うため、穂を差した。握る手が滑らないよう中心付近には皮を巻き、運搬時に肩に担げるようベルトを渡した。
そのロッドに羨望の眼差しを向けるシールを彼女はなだめた。
「四精使いはロッドを使わない。胸のペンダント、それが武器のようなものよ」
「そ、そうなんだ……」
彼女は胸に手を当てた。少し母のことを思い出したか。
「さ、入ろうぜ」
ハルがロバを店の前に繋いだ。そして鞍の上のシールを降ろした。




