表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚士の休日  作者: ittpg(三崎 まき)
第6話 一条の水
68/228

3.見せてくれよ ☆

 斜面になった街道わきの草むらで、三人は昼食をとった。

 一抱えほどの石に、リリィは腰を落とした。その右で、シールが水筒の水を喉に送り込む。食事を終えていたハルは、シールの反対側で草の中に寝そべった。薄黄色の小さな蝶が鼻に止まると、匂いでも嗅ぐようにふんふんと小鼻を膨らませた。


挿絵(By みてみん)



「どう?疲れは取れた?」

 リリィの問いかけにシールは「う、うん」と返答したが、明らかに無理をしていた。リリィは草でくるんでいたラクティスを大きめに裂き、シールに渡した。

「食べなさい。元気が出るから」

「うん!」

 『ラクティス』は、家畜の乳を発酵させて固めた一般的(スタンダード)な携行食品だ。栄養価も高く、旅人の必需品だ。シールはリリィから受け取ったかけらをさらに裂き、上品に口に運んだ。その様子を眺めながら、午後はロバに座らせようとリリィは思った。



 ※


「前から気になってたんだけどよ」

 ハルが不意に口を開く。「何?」とリリィが訊くと、彼女は身を起こして胡坐(あぐら)をかいた。視線はリリィの左の腰に注がれている。


「おめぇの腰の剣、飾りか?ちゃんと使えるのか?」


 そう言えば―――


 リリィは思った。ハルと出逢ってから、自分は一度も剣を抜いていない。彼女がそう思うのも無理はない。

「使えるわよ。まあ、あまり使う気はないけど」

「そりゃそうだよな」

「どうして?」

 シールが尋ねる。ハルが説明する。

「だって、リリィは左腕しかないんだぜ。左の腰に提げてる剣は抜きにくいし、抜けても握り直さないと構えられない。使う気があるなら、右の腰に提げるってもんよ」

「ふ、ふ~ん……」

 その説明はおおむね合っていた。ただ不正確な部分もあった。

「見せてくれよ」

「いいわよ」

 リリィが立ち上がり、左手を(つか)に掛けた。窮屈そうに親指を下にして。ただその握り方が正しい。親指が上なら、ハルが言うように握り直さなければならない。それをしなくて済むよう、訓練した握り方なのだ。

 そしてリリィは腕を真っ直ぐに上げた。これも左手で抜くためだ。そうして今、秘められていた業物は、その全身を蒼穹の元に晒した。


「おおお!」

 ハルが感嘆の声を上げる。まっすぐな刀身。錆やキズどころか、くすみひとつない見事な輝き。反射する陽光はあまりに強く、あたかもそこにもうひとつの太陽が生まれたかのようだ。


「何かすげぇな……あたいはアーチャーだから剣のことはわかんねぇけど」

 一般的な長剣と比べれば、それは短い。刃も薄い。普通の(はがね)であれば、何とも心もとない厚さだ。だが軍人の娘だったシールは、幼いころから幾振りもの剣を見てきた。それゆえにわかった。それは今まで見たどの剣とも違う。その輝き。硬質感。ただの鋼ではない。草蒸れの大気に千年晒しても、一片の錆も忍び寄ることはできないだろう。そして滴る一条の水のごとき造形は、幼いシールでなくとも、形容する言葉を見失うほどだ。


 だがシールは知らなかった。もちろんハルも。

 その剣こそが―――


(あれが……)

(そうだ。名匠グスタフ=カッシニ最後にして最高の傑作―――)


 かつてマクベスに歯向かう諸候領の民を恐れさせた妖剣、『スティグナ=ディ=アクエリア』だったのだ。

 ……………


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ