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召喚士の休日  作者: ittpg(三崎 まき)
第5話 清算
62/228

8.裁きは我らにて (2) ☆


 ※


 対峙するふたりの距離は、ものの五ルーテ。舞台の上の全ての役者が動きを止めている。

 だが時は止まっていない。槍を握る男の剥き出しの右腕は、こもる力で脈動している。


「お、お前は……リリィか!?」

「おかあさん!」

「シール!?」

 身を起こし、上掛けを胸元に引く婦人。真円まで開かれた(まなこ)は、リリィと並ぶ少女に釘付けになる。


「お前たち、どうやってここへ!?」

 唾を飛ばして問う男に、リリィは首をかしげておどける。

「ちょっと外の衛兵たちには眠ってもらって。この子の力でバルコニーに飛び込ませてもらったわ」

 その説明は、ベッドの上のふたりには伝わらないだろう。だが、今はそれを理解する時ではない。


「城内の兵を呼ぶぞ」

「できるかしら?(めかけ)のよがり声を手下に聞かせる趣味でもあって?」

 リリィは細い戸口に目を遣る。彼女は知っていた。ここは身の周りの者にも秘められた場所。だからあの扉の向こうに衛兵はいない。そしてリリィが背にするバルコニーも、他の部屋にはつながっていない。有事でもない時に、外部からの闖入(ちんにゅう)は想定されていないのだ。


「……………」

 男――マクベスは、危急の事態を認識した。だが無論、座して死を待つような性根でもなかった。何度も死地を掻いくぐってきた。戦場でも、市井でも、この王城ででも。眼光はすでに戻り、事態を切り抜ける機会(チャンス)を探る。


「……どうした、その右腕は?死霊を宿したお前の力の源はどこに行った?お天道(マーゼル)様にでも取り上げられたか?」

 視線の先にある、少女の右袖。そこにはかつて自分が怖れ、彼女を放逐する原因となった強大な力の源泉があった。それが今、ない。ケープから覗く半袖が、少女の動きに合わせて空中を揺らめくのみ。だが少女の余裕は(かげ)らない。


「ふふ、あなたが怖がるといけないから切り落としておいたわ」

()れ言を」

「戯れ言と思うなら……どう?この場で私と斬り結んでみる?」

 リリィが左手を(つか)にかける。ハルも弓を握る左腕に力を込める。右手は背中の矢籠を意識する。

「安心なさい。召喚術は使えないわよ。剣の腕にはあなたも覚えがあるんでしょう?それとも、その槍の間合いで挑んでみる?」

「ふっ……」

 マクベスが嗤った。その嗤いは敵対者ではなく、自らに向けられていた。


「リリィ……剣もロッドもずいぶん短くなったように見える。()()()になったな」


「裸の女をはべらせておいて言うセリフ?」

 婦人が目をきょどらせる。その様子をシールが上目遣いに窺う。視線は責めるような、失望したような、表現しがたい負の感情を混ぜていた。


「あ、そうそう、近ごろずいぶん見目好いお(めかけ)にご執心だそうで」

 リリィがわざとらしく戦闘態勢を解く。

「そのお妾さん……家来の将軍の未亡人と聞いたけど?」

 婦人の表情が驚愕に打たれる。リリィが畳み掛ける。


()()()のよね。部下の美しいご婦人を手に入れるために。虚偽の情報を流して小部隊で将軍を展開させ、罠に嵌めた。待ち伏せされた将軍は敵に囲まれ討ち死に。そうしてまんまとその妻を手に入れた」

「!!……」


「……その様子だと、隣のご婦人も事情はご存じのようね」

「ほ、ほんとうなの!?おかあさん!」

「シール、お母さんは……」


 ハルは横目でシールを窺う。マズい……シールの感情が爆発する!



挿絵(By みてみん)


 ……しかしその前に場の緊張を吹き飛ばしたのは、マクベスの哄笑だった。


「はっはっはっはっは!」

 リリィが苦々し気な目を向ける。


「……その洞察力、幼いころから変わっとらんな!だがひとつだけ付け加えておこう。わしはウラーヌを寝取ったわけではないぞ。わしに愛されて、抱かれて、そしてウラーヌもわしを愛するようになった。決して手籠めにしたわけではない。そんな悪趣味なことはせん!」

 リリィは婦人――すなわちシールの母・ウラーヌ=コーリンベルを見遣った。うなだれた彼女は、哀願するように絞り出した。


「許して頂戴……シール、これが大人なの……」

「……………」


 シールが天井を仰いだ。その目は固く閉じられていた。ハルはいたたまれない気持ちになった。最愛の母が、誇りだった父を事実上殺した相手を愛する。幼い魂が受け入れるにはあまりに重い現実だった。止め切れない感情が両目からこぼれ落ちた。

 そして―――

 そんな、今にも崩れ落ちそうな少女に、リリィは悪魔の提案を囁いた。


「どうする?今あなたが望めば、瞬きが終わるまでに死体を作れる」

「……………」

「……なんなら、()()()()()()()()()()いいわよ」

「!!」


 脅しではない。そんなこと、リリィは何のためらいもなくする。自分はそれを知っている。だがシールにわかるか?ハルは唇を噛んだ。だめだシール!誘惑に乗るな!そいつの中には――本物の悪魔がいる!


「……………」

 シールがガクリとうなだれた。肩が落ち、張り詰めていた糸は、もう彼女を支える力を失っていた。まずい!今のシールに、悪魔に抗う力は残されていない!


 ――赦免(イオラァ)か、鞭打ち(ヒシルス)か。


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