8.裁きは我らにて (1)
石組みの壁に、わずかな数のランプがともる。焦げる油の音。ゆらめく小さな炎。
赤、黒、白。鮮やかな糸で紡がれた壁掛け。だが今は、暗がりにその姿を潜めている。その両側には剣、槍、戦斧、鎧兜。それらは武力の象徴であり、有事には部屋の主の身の守りとなる。権力者の居室にふさわしい調度品。テーブルに並べられた酒や果物。
ただ、出入り口の扉だけは不釣り合いに小さい。安易な出入りを拒むかのように。人一人分ほどの幅の板張りの戸には、内側からかんぬきが掛けられている。
中央の壁に寄せて置かれた寝台。天蓋付きのベッドを、織られた精緻なレースが覆う。
世界の四分の一を統べる者にふさわしいそのベッドで同衾する男女の影。事を終えたのか、男は自分にしだれ掛かる女を片腕で抱いている。屈強な体躯。体毛に覆われた厚い胸板。だが羽毛を詰めた上掛けから覗く上半身のシルエットには、どこか老いの先兵が忍び寄る。
その上体に顔をうずめる婦人。たおやかな亜麻色の髪。火照りの余韻を味わう紅顔は、舞い降りた美と豊穣の女神フォルフォーセスとも見まごう。通った鼻筋。艶っぽい唇。撫でつける長いまつ毛の下には、見る者を惹き付けて離さない碧い瞳。首筋から肩、上腕部にかけての剥き出しの肌は上気し、婀娜っぽい曲線を描く。
むせ返る甘い匂い。媚薬の香を焚いているのか。吐息がランプの炎を揺らし、壁に映った影が魔物のように蠢く。
不意にその影が乱れる。風が入り込んだのか。婦人がカーテンに目を遣った。開け放たれたバルコニー。外の闇。そして……
「きゃあああ!」
「何奴!」
白いレースのカーテン。権力者の営みを隠す窓掛けの向こうに、あってはならない人影が映る。秘め事を覗き込む、許されざる存在。男は上体を跳ね上げ、傍らの槍を握る。
「お前は!」
その声に呼応し、人影はカーテンを払う。
「……久しぶりね、マクベス!」
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