表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚士の休日  作者: ittpg(三崎 まき)
第5話 清算
60/228

7.いざ王城へ ☆

 再び高木に登っていたハルが降りてきた。彼女は声をひそめた。


(南の見張りが裏手に移動した。もうすぐ北の三人が代わりに南に入る。今だ)


 ハルが弓を取る。そして作った矢に焚火の火を移す。首尾よく一本目が十分な炎を上げた。彼女はリリィと目くばせした。準備は完了だ。


 三人は前進を開始した。身を屈め、吹き抜ける一陣の風のように。静粛に。そして速やかに。眼前に立ち塞がる城壁。外側に衛兵がいないことは確認済みだ。左手に持った麻袋をリリィがぐるぐると回す。そして速度が最大になったところで指を離す。曇天の夜空に弧を描く布袋。その軌跡を追ってハルが火矢を引く。


(いけっ!)


 炎が放たれた。夜空を流れる麻袋とそれが中空で出会い、火球を作る。


(おっしゃあ!)


 乾いた麻の袋はたちまち燃焼し、白い煙の塊となって塀の向こうに降り注いだ。



 ※


「何だ!?」

 兵士たちは、矢が風を切る音には敏感だ。戦場でそれは、自らの命を即座に奪いかねない。弾かれたように音の方向を見上げる。視界に飛び込むひと筋の炎。それは流星のように城壁外から飛び込んでくる。


「攻撃か!?」

 しかしその声は半信半疑だ。無理もない。石組みの城に火矢での攻撃は有効ではない。しかも矢は一本。城を攻めるなら、雨のように降り注ぐはずだ。

「一本だけか?」

 その時、火矢がボンと燃え上がった。そして飛翔を止めた。炎は消え、あとに残ったのは白い煙の塊。それもすぐに拡散し、薄まりながら降りてくる。ありふれた焦げ臭さ。だがその煙を吸い込んだ兵士たちの動きは不自然に止まった。

「うっ……」

 呻いた兵士がふらふらと倒れ込む。

「なんだ?……」

「眠い……」

 兵士たちは次々と膝を折り、地に伏せた。



 ※


「静かになったな」

「……行くわよ」

 リリィとハルが身を屈める。その肩をシールが両手で抱く。リリィが抑えた声で言う。

「意識を集中させて。魔法の練習をする時みたいに。そして唱えるの。『エンブリーズ』と」

「え、えんぶりーず?」

「ええ。『フラーム』じゃない。あなたが詠唱すべき言葉(ワード)、それは―――」

 シールが眉間に力を寄せる。


()()()()()()!」


挿絵(By みてみん)


「うわっ!」

 ハルが声を上げる。足元がすくわれ、体重が消失する。風だ。突如巻き起こったつむじ風が三人を包み込む。

「静かに!」

「!……」



 ※


「……………」

 気付いた時、三つの影は居城のバルコニーに立っていた。


「な、何が……」

「あたし、あたし……」

 シールが両手を見つめる。動揺しているのが見て取れる。肩が上下し、呼吸が乱れる。心臓はネズミのような速さで脈打っているだろう。

 いや、それはハルも同じだった。何が起こったのか。把握できない。めまいがし、足が地に着いていない感じがする。だが間違いなく言えることは、ついさっきまで自分たちは城壁の外にいた。そして今、王城のバルコニーに立っている。リリィに言われた呪文(スペル)をシールが唱えた瞬間、体が浮き、宙を舞った。


「シールが……風を起こしたのか?」

「そう」

 少女の肩に手を置き、リリィは優しく、それでいて力強い口調で告げた。

「あなたは魔法を使える。でも、ただの魔法使いじゃない。あなたは風の精を操る、()()使()()なのよ」

「あたしが……」

 シールはまだ半信半疑だ。「どうしてわかったんだ?」、ハルが訊くと、リリィは手をシールの首元に遣った。リリィの指が触れるのは、ネックレスの鎖。

「この首飾り……文様は四精使いのモチーフ。だからもしやと思った。そして中央の白い宝石……赤は火、黄色は土、青は水、そして白は風」

「シールは風使いってわけか……」

 ハルがまじまじとシールを見下ろす。シールが両手でドレスの中の首飾りを抱く。母から貰った宝物。それにそんな意味があったなんて、夢にも思わなかった。そしてまだ若い母が、なぜ自身で身に付けず、幼い娘に託したのか。その想いは―――


「おかあさん……」

「さ、行くわよ。その()()()()のところへ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ