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召喚士の休日  作者: ittpg(三崎 まき)
第5話 清算
59/228

6.過去を知って ☆

 夜が更けていく。

 街道の往来は絶え、夕刻の喧騒が嘘のように静まり返る。風もやみ、耳に届くのは、森の奥から時おり響く袋鳥(ふくろどり)の声のみ。



挿絵(By みてみん)


「シール、眠くない?」

 シールの肩にリリィが手を添える。「う、うん」、シールは答えたが、まぶたはうつらうつらと落ちかけている。もたれてもいいわよ、リリィがささやくと、シールは待っていたかのように体をリリィに預けた。

 ハルは火の守りをしている。くべた枝がパチパチとはじけて静寂(しじま)を破る。


「なあ、リリィ……おめぇ、この街に来たがってたよな」

「ええ」

「この街に来たのは……もしかしてマクベスに会うためだったんじゃねぇのか?」

 シールがまぶたを上げた。

「……そうよ」

 やっぱりな……ハルの心の声が聞こえた。ハルは続く問いの言葉を発しなかったが、隠しておくのもためらわれたのか。リリィは自ら語った。

「私はね……そう、ちょうどシールくらいの歳のころだったか……マクベスの子飼いの傭兵だったの」

「傭兵!?」

 ハルが素っ頓狂な声を上げた。シールも驚き顔だ。

「傭兵と言っても、作戦行動は常に私ひとり。敵対した者は皆殺しにしたから、私の姿を見て生き延びた者はいない。マクベスとの連絡も地下通路を使って、会う時は一対一だったから、彼以外にこの国で私を知ってる者はいない。誰も姿を見たことがないから、世間では『悪の大魔導士』なんて陳腐な呼び方されてたみたいだけど」

 『悪の大魔導士』のことはハルも知っていた。狙われたら村、町、国ですら消滅させられる。最も有名なのは四年前の『ゴヤ村の惨劇』だ。マクベスの支配を頑なに拒んでいたクーパス自治国の兵数千が、戦場となった村の住民ごと皆殺しにされた。その恐るべき下手人が、いま目の前にいる。

「マジかよ……」

「……『力』を持っていたころの私は何人でも殺せた。負ける気がしなかった。でもやりすぎた。結局その『力』はマクベスをも脅かすことになって……最後は『お願い』されて彼の元から去った。私のことを口外しないこと、以降の私に干渉しないことを条件に」

 その後、リリィは人目を避けながら放浪し……ツォイボヤン山脈を西に越え、召喚士の村に流れ着いた。

「だから、口封じに行くのか?」

「最初はね。そう考えてた。でも……今は少し違う」

 リリィは顔を上げた。

「辺境で名前も姿も、『力』も晒した。私の正体に気付いた者もいたはず。でも、何も変わらなかった。言っても辺境は王国の領地で、諸候領とは国が違う。そうだからか。それとも私の存在が、自分が思ってるほど大きくなかったのか。よくわからない。だから彼に会って、自分がどうするのか。何を言うのか。それもわからない。もちろん、殺しちゃうかもしれないけど」

 問い詰めるようだったハルの目は、困惑に変わっていた。

「どう?私に愛想が尽きた?」

 リリィの自嘲気味の言い草は、逆にハルの迷いを吹っ切れさせた。

「愛想も何も、あたいはおめぇのしもべになるって約束だからな。おめぇが従えって言えば従うし、去ねって言えばサヨナラするだけさ」

 右手のひらを上に向ける『サヨナラ』の仕草にリリィの表情が緩んだ。

「シールは?どうする?街に行って私のこと言いふらす?だったらここで殺すかもよ?」

 残忍なリリィの言葉。だがシールの瞳にも怯えはない。

「リリィがそうしたいなら、あたしはころされたっていいよ。でも……リリィはそんなことしないとおもう」

「ふたりとも、お人よしが過ぎるわよ」

 リリィがくすりと嗤った。三人の笑顔が、心からのものに変わった。リリィが天を仰いだ。そこには変わらぬ闇、そして焚火の炎を映す木々の影があった。

「……じゃあ、そろそろ行きましょうか」


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