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召喚士の休日  作者: ittpg(三崎 まき)
第5話 清算
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4.母のうわさ ☆

 翌朝も、にぎやかな朝食の準備が始まった。外出のため、弁当も作られた。ミンナは保存が利かないが、日帰りの行程なら十分だ。シールはひとつ、リリィはふたつ、ハルは三つ。(つる)で編んだバスケットに詰め込んでシールが持った。


 朝食後、一行は出発した。

「さあ、いよいよ乗り込むぜ!領主様の街によ!」

 ハルが大げさな動作(アクション)で拳を上げた。その後ろをリリィとシールが並んで従った。リリィは腰下まである薄手のケープを羽織っていた。ローブが暑かったので脱いで行きたかったが、布服だけでは片腕が目立ってしまう。そのためシールに借りたのだ。彼女の母親の物だろう。シールは昨日と同じドレスだった。



 この季節、雨が降ることも少ない。春の陽気のもと、一行は昼前には街近くに到着した。

 前方、街道の右手に一本の高木が見えた。セクタンギと言う種類の樹木だ。真っ直ぐ伸びる太い幹は、大型の木造建築物の柱としてよく利用される。高さは二十ルーテにもなる場合がある。そしてその孤高の樹形こそが、目的地(ゴール)を示す目印(ランドマーク)だった。

「マクベス公の治める諸候領の中心都市、ザカヴァね」


 諸侯がいなくなった今、『諸候領』と言う表現はもはや適切ではない。ただ統一から一年、その呼び名は依然一般的(ポピュラー)だった。マクベス自身は元の自国『マクベス国』を改め『マクベス公国』を正式な国名と定めた。『王国』としなかったのは、統一に当たって後ろ盾となった大平原の『王国』に(へりくだ)ってのことだった。

 そしてその首都たる中心都市、ザカヴァには、街を囲う城壁も、頑強な城門もなかった。元々はキシュル同様、東西を貫く街道沿いの宿場町だった。商業施設は賑やかだが、国としての産業は農業や林業が中心だ。農業には土地が必要だし、木を切るには森がいる。またシールの父のような軍人も多くは郊外に居を構えているため、人口が分散しているのだ。建造物も、街道沿いに細長く集まる程度だ。


 そして街が無防備なのには理由がある。ハルは街道を望んだ。春霞(はるがすみ)と往来が巻き起こす砂塵に曇る視界の先に、屹立する尖塔が見える。

「あれが領主様の城か?」

「そうよ」

 リリィが短く答えた。塔は右側、すなわち街道の南側に位置していた。視線を下げると、高い城壁が行き交う人々を威圧していた。城は一辺が二百ルーテほどの正方形で、全周を強固な城壁で固めていた。有事には街の住人全員を収容でき、かつ長期戦に備え、水や食料の備蓄施設を地上にも地下にも有していた。



 ※


 賑わう街で、リリィとハルは情報収集を開始した。商品を物色するふりをしながら、まずは領主の評判を探った。商業を重視する領主マクベスは、商売人たちからはおおむね好評なようだった。征服されたはずの隣国から来た行商人の中にも、自らの征服者(コンカラー)を悪く言う者はいなかった。

 シールの父親が亡くなった、昨年の戦いのことも聞いて回った。戦闘は海に近い、東の最果ての地で起った。最後まで服従を拒否していた小国を攻めたが、いざ刃を交えると敵勢はわずかで、リリィが伝聞で得ていたとおり、半日を待たずして決着してしまったらしい。

 実際に従軍した者にも話を聞けた。戦死したのは有能な将軍だったが、敵部隊の側面に回り込む最中に待ち伏せに遭ったとのことだった。マクベス軍は十倍の戦力を有しており、わざわざ陽動に兵を割く必要もなかった。戦いのあまりにあっけない幕切れに、将軍は犬死にだったのではとも囁かれていたらしい。



挿絵(By みてみん)


 果物の露店があった。スカーフを巻いた恰幅の良い婦人の前で、赤、黄色、緑、茶、紫……色とりどりの果実が円錐の山を作っていた。

 そんな中、ひときわ大きな緑の果物があった。ひと抱えもあるその果実はマスクァと言う品種で、シールですら、生まれてこの方口にした機会を全部言えるほどの高級品だった。


「一コ三万八千ソリタぁ!?」

 値札を見たハルが卒倒した。

「あら、美味しそうじゃない。人数分貰おうかしら」

「ままままままままマジかよ!」

「お嬢ちゃん、太っ腹だねぇ!」

 資金は豊富だ。話好きそうな露天の婦人はほくほく顔だ。うおおおおおお、ハルは動物のような雄叫びを上げた。

「シール、食べたいものがあったらほかにも取って」

「うん、わかった!」

 彼女も満面の笑みだ。リリィはロッドで、すぐ近くにそびえる高木を指した。

「ハル、あのセクタンギの(たもと)でお昼にしましょう。先にシールを連れて行っててくれる?」

「おっしゃあ!行こうぜ、シール!」

「うん!」


 ひとり残ったリリィは、会計しながら、他の店と同様領主の評判を尋ねた。マスクァ三個プラスその他諸々、総計十二万ソリタお買い上げの上客に口が軽くなったのか、婦人はお決まりの賛美に続けて、少し声をひそめた。

「……でも最近は、新しい(めかけ)に入れ込んでるとか」

「妾?」

「それも、去年の戦争で亡くなった部下の奥様だったって言うから……」

 懸念どおりの情報。

「正室はいるんでしょう?何をしてるのかしら?」

「お妃様は数年来病で臥せっておられてねぇ。長らく側女(そばめ)も置かず、お妃様一筋かと思ってたんだけど、お世継ぎも出来ず、戦も終わって気がお緩みになったのかねぇ」

 足元の小箱に金貨をしまい、大事そうにふくらはぎで挟んだ婦人が顔を上げた。

「おっと、今のはあたいが言ったってことはナシにしておくれ」

 慌てる婦人にリリィはロッドを軽く上げて了解を示した。


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