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召喚士の休日  作者: ittpg(三崎 まき)
第5話 清算
56/228

3.まほうつかいのあかし ☆

挿絵(By みてみん)


 月光のもと、リリィとハルは湯あみをしていた。

 シールがひと抱えもある大きな(はがね)の釜で湯を沸かした。中には髪虫除けの薬草を入れている。その湯を水で埋めながら、ハルがリリィの髪を洗う。


「それにしてもでけぇ乳してんな」

 湯あみ着のふくらみに目を落とし、ハルが不満げに漏らす。

「普通だと思うけど。あなたはえぐられなくてよかったわね」

 「うるせぇ」、ハルは悪態をついたが、言葉尻ほどの勢いはなかった。母のことを思い出したか。彼女は話題を変えた。

「そう言やおめぇの歳聞いてなかったな。いくつだっけ?」

「十六よ。あなたは十五よね」

 アーチャーの儀式を受けるのは、十五歳の少女だ。

「おめぇのひとつ下だな」

 身長はハルの方が拳ひとつほど高い。自分が年下だったのは、ハルには不本意だったようだ。だがハルには、自分より、屋内で寝床の準備をしているであろう少女が気になっていた。しばしの沈黙ののち、彼女は口を開いた。


「……どう思う?」

「まあ、あなたの良くない想像のとおりだと思うわ」

「だよな」



 ※


「あー、金持ちはこんなベッドで寝てんのか!たまんねぇぜ!」

 上掛けの中でハルが身体を転がす。弾力と、シーツの感触を堪能しているようだ。夜着も家人のものを拝借していた。シルクのシュミーズなど、彼女は生まれてこの方身に着けたどころか、触れたことすらなかった。

 その隣で、同じ夜着に身を包んだリリィも清潔な寝具の手触りを楽しんでいた。キシュルの宿はお世辞にも高級とは言えなかった。マチャルテの逗留先も快適ではあったが、それでもこの家には及ばない。久しぶりの湯あみに身も心も洗われた。彼女はランプの灯を消し、ベッドに身を横たえた。


 その時、ふと入り口に人の気配がした。

 青白い月光に身を映し出すのは……


挿絵(By みてみん)


「……シール?」

 その姿は、昼間とは別人のように大人びていた。自分たちと同じデザインで、サイズだけを小さくした肌着。美しく、そして妖艶な女性――それはまだ見ぬ彼女の母か、そんな成熟した女性が、夜の魔法で小さく姿を変えられたようだった。


「ねえ、いっしょに寝てもいい?」

 その言葉、幼い声……魔法は瞬時に解ける。きまり悪そうに扉に手を掛ける姿は、まごうかたなき()()だった。

「いいぜいいぜ!来な!」

 ハルがシーツをバンバンと叩いた。リリィは身を起こし、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

「そっちのお姉ちゃんと一緒に寝ると、朝までに十回はベッドから蹴り落されるわよ」

「あんだとォ!」

「うん。リリィといっしょに寝る」

 「ちぇっ」……しだれたリリィの長い髪に、ハルの舌打ちが響く。



 ※


「……まだおきてる?」

 耳元の小さな声に、リリィは寝返りを打った。彼女は左腕で、優しくシールの背中を抱き寄せた。

 不思議な感覚だった。幼い子供を懐に(いだ)くのが、これほどまで心安らぐことなのか。まるで小さな魂が、自らを抱く見返りに、その者に安寧を与えているかのようだった。リリィは、シールの頭を胸に埋めた。自分の体の柔らかな部分は、彼女に安らぎを与え返すことができるだろうか。そんな葛藤を終わらせる言葉をリリィは待った。だがその耳が捉えるのは、カエルのように響くハルのいびきばかり。


「あっちのお姉ちゃんがうるさいの?」

 シールは胸の中で、窮屈そうにかぶりを振った。その弱々しい様子に、リリィは昼間のことを思い出した。自分も知っている呪文を唱え、魔法の鍛錬をする少女。だがその法は完成を見ない。それが幼い心を痛ませていることは想像に難くない。


「あなたは、なぜ自分が魔法使いだと思うの?」

「……見える?あたしのたからものなの」

「!……」


 シールが夜着の胸元から引き出したのは、首飾り(ネックレス)だった。十字の台座を囲む金色(こんじき)の真円。その中心に宝石がはめ込まれている。白く艶やかな曲面に流れる、溶いた染料のような青い文様。夜空の星々のように輝く、金の粒。


「このネックレスは、まほうつかいのあかしなんだって」

 おそらく母親から、その言葉とともに与えられたのだろう。その母親も、そしてその母も……『本当に』魔法使いだった先祖から代々受け継がれてきたものだろうとリリィは想像した。


「魔法の練習は?」

「ちいさいころからしてる。『フラーム』ってとなえて、手のひらから火をだすの。でも、けむりしかでないんだ。それもたまにしか……」

 魔術師の子孫と言う自負と比べ、無力な自分。その事実が幼い心を傷つけている。それは自らがかつて身を寄せた召喚士の村もそうだった。そしてハルの生まれ故郷もそうだ。もっとも……


「ガーッ、ガーーッ」

 ……ハル自身はその能力を受け継ぎ、隣で安らかな惰眠を貪っているが。


 そしてリリィは同時に疑念も抱いた。思い起こすのは、かつてここからいくらも離れていない場所の書物庫で見た、古い文献の記述。少女はその意匠を『まほうつかいのあかし』と説明するが――


(十字のモチーフ、白い宝石……もしかして……)


1枚目の挿絵の修正前版をBlueskyにポストしています【閲覧注意】

https://bsky.app/profile/ittpgnovel.bsky.social/post/3kzm7wcw4dd23

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