1.まほうのれんしゅう (2) ☆
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まばらな森を奥に進むと、石造りの立派な家屋が現れた。この地方でこんな家に住むのは、それなりの地位身分の者だ。ハルが目を見張った。
「すげぇ家に住んでんな!」
「入って入って!」
少女が指さす扉は板張りで、金具で補強されていた。表面は丁寧に加工され、ニスが塗られていた。「ピカピカじゃねぇか!」、ハルが物珍しそうに表面を撫でた。おねぇちゃん、あけられないよ、おお、悪ぃ悪ぃ、そんなやり取りをしながら、リリィとハルは中へ促された。
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少女はふたりを客間に通した。
割ると流紋が現れる、ラダンダイトと呼ばれる石材で作られた華美なテーブル。毛皮に綿を詰めたふかふかのソファ。窓枠には、庶民の家にはほぼ見られない窓ガラスがはめられている。
「おっ、弓掛けもあるじゃねぇか!借りるぜ!」
壁に組み上げられたそれをハルが目ざとく見つけた。加工された木材ではなく、木の幹や枝を自然のまま組み合わせている。装飾性も兼ねた造りだ。
「おとうさんがつくったの!おとうさんは軍人だったんだよ」
自慢げに両腕を広げる少女。だがリリィは、『軍人だった』という過去形が気になった。屋内に少女以外の人気がないのも引っ掛かる。
「軍人だった?」
リリィが聞くと、少女は声を落とした。
「きょねんたたかいで死んじゃったけどね」
「お母さんは?」
「まちに出て帰ってこない。あ、おてがみはちゃんとくれるよ!食べものもおくってくれるし」
別に自分を捨てたわけではないと母を庇う少女。名はウラーヌと言うらしい。リリィは悟った。寂しいんだろうな……だから自分たちを家に招いた。
少女は家の中を案内した。屋内は客間以外は質素で、軍人だったらしい、彼女の父の人柄が偲ばれた。
「おねえちゃんたち、おなかすいてない?ごはん作ってあげるよ」
「お、おう、わりぃな」
「手伝うわ」
リリィが言うと、少女は肩の前で手を左右に振った。
「いいよ、おねえちゃんは手がふじゆうでしょ?」
「あたいが手伝うぜ」
「悪いわね」
調理は少女とハルのふたりですることになった。
「おねえちゃん!やさいはもっとこまかく切って!あっ、それまだにえてない!」
ハルの雑な仕事ぶりを叱る少女の声が厨房にこだまする。だがその声もどこか楽しげだ。賑やかな食事の準備は久々なのか。手持無沙汰に食材を見ていたリリィが尋ねた。
「このあたりの森で採れるものも多いわね。自分で探してるの?」
「うん!日もちしないものは自分でとってきてるよ」
野山に自生する食用の植物に関する知識はそれなりにあるとリリィは推察した。
「きんじょの人もときどき食べものをもってきてくれたり、おせわしにきてくれる。おかあさんにたのまれてるんだって」
だから召使いもいないのか。料理するふたりを見ながらリリィは自己紹介する。
「言い遅れたけど、私はリリィ。そっちはハル」
「あたしはエルシール。みょう字はコーリンベル。シールってよんで」




