1.まほうのれんしゅう (1) ☆
■物語の舞台
アーチャーの少女・ハルを道連れに加えたリリィは、東方諸候領の中心都市・ザカヴァを目指します。その途中で、魔法の練習をしている幼い少女と出逢います。
■登場人物
・リリィ
召喚士の少女。死霊を宿していた右腕と共に召喚能力を失うが、ロッドと剣の腕前は健在。
・ハル
アーチャーの少女。三本の矢を同時に放つ曲芸撃ちの名手。リリィのしもべとして、リリィの旅の伴侶となる。
・シール
マクベス国の将軍の娘。たおやかな銀髪をもつ幼い少女。『魔法使い』を自称する。
・マクベス
東方諸候領を統一した王。かつて幼い日のリリィを傭兵として使役した。
・ウラーヌ
シールの母。
■その他
・ミンナ
炊いた穀物を丸めて固めた携行食料。我々の世界で言うところのおにぎり。
・セクタンギ
高く真っ直ぐ伸びる種類の高木。
・1ルート(複数形『ルーテ』)
距離の単位。約1.8メートル
・1カロルーテ
距離の単位。1カロルーテ=1,000ルーテ≒1.8キロメートル
・1ソータ(複数形『ソリタ』)
通貨の単位。約0.5円。ただし食料や日用品は、我々の世界より概して安価。
「フラーム!フラーム!」
春に包まれた街道。木漏れ日が光の粒となって舞い降る中、並んで歩くリリィとハルの足を、不意に飛んでくる声が止める。
「フラーム!フラーム!」
顔を見合わせるふたり。声は何度も聞こえる。ころころと手のひらの上を転がるような、幼い少女の声だ。
「なんだ?なんだ?」
声は傍らの森の中からする。ハルは好奇心を抑えられない。木立のあいだを覗き込む。そしてリリィも、その言葉が引っ掛かった。『フラーム』は古グル語。かつては自らも召喚に用いた語だ。
ハルが道を外れ、胸の高さほどの下草を分け始める。リリィもあとを追う。草を掻く音を、次第に近くなる声が押し戻す。茂みがほどなく拓ける。
「……………」
現れたのは、小部屋のような森の中の空間。
その場所で、ひとりの少女が両腕を前に突き出している。歳のころは十くらいだろうか。濃緑のドレスに白の肩掛け。腰帯と大きなリボン。整った服装は、それなりの地位の者の子女に見える。
そして何と言っても一目で見る者の息を呑ませるのは、吹き下ろす息吹のようなたおやかな銀髪。緩い曲線を描き、肩の下まで垂れる。この年代の少女にしては長い。そんな少女が、大きく息を吸い込み、おちょぼ口を開いて声を張り上げている。
「フラーム!フラーム!あっ、けむりがでた!フラーム!フラーム!あれぇ……?」
なかなかうまくいかないようだ。
「魔法の練習?」
リリィが声をかけた。突然の来訪者に驚く少女。だが草むらから覗くふたつの顔に気付くと、少女は相好を崩した。
「うん!シールはね、まほうつかいなの!」
愛らしい丸顔に、利発そうな白銀の眉。『魔法使い』と称する声は誇らしげだ。だが、少女はすぐに声を落とした。
「……でもね、なかなかうまくいかないの」
ハルとリリィが草むらを抜ける。ローブにロッド、現れたリリィの出で立ちに少女は目の輝きを取り戻す。
「ねえねえ、おねえちゃんももしかしてまほうつかい?まほうだせる?」
リリィは腰の麻袋の紐を解く。そして中から黒ずんだものを取り出す。
「ひっ!」
少女が身を引く。リリィが示したのは、自らの右腕。彼女はそれを、短くなった腕の先にあてがった。
「これがつながってたころは使えたけどね。今はできない」
まずいことを聞いたと思ったのか。少女は申し訳なさそうに眉を下げた。
「いたくないの?」
「今は痛くないわよ」
穏やかな表情でリリィが答えると、少女の顔に笑みが戻った。
「ねえねえ、おねえちゃんたち、うちによっていかない?」
ハルを見るリリィ。いいんじゃね?……ハルは表情で答えた。
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