5.討伐 (4) ☆
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二十本の水筒全てを満たし、戻ると、半分石になった少年が地に横たわっていた。頭部は完全に固まり、貫かれた首は折れて胴の横に転がっていた。手足も外れ、背中だけに衣服の繊維が残っていた。
膝を突き、ハルは腕のかけらをひとつ拾った。それが人体の一部だったことが信じられなかった。白く、粉を吹くその石ころには何の弾力もなく、冷たい感触をハルに与えるだけだった。
「何てことすんだよ!!」
憤怒に潤む眼差し。だがそれを、リリィは冷たく見下ろす。
「不意打ちで片目は潰せても、そのあと分の悪い戦いを強いられる」
「……………」
「バジリスクは石化術の瞬間止まる。飛び道具を持たない私が確実に目を狙えるよう、術を使わせたかったし、そのために盾が欲しかった。バジリスクには木の盾も、鋼のそれも効かない。有効なのは、生身の盾だけ」
「でもよ!でも……それでなんの罪もない奴を殺すなんて!」
「……バジリスクを狩るなんて聞いたことない。そんな無謀な注文をしたのはハル、あなたよ。私はあなたのオーダーに応えるために最善を尽くしただけ」
「くっ……」
ハルは少年のかけらを集め、埋葬した。埋める前、水筒一本分を使い全身を生身に戻した。目は見開かれたまま、死の瞬間の恐怖と苦痛を剥製にしていた。ハルは指を当て、まぶたを閉じさせた。岩と石ばかりの谷で地を掘る道具もなく、ハルは石を積み上げ少年の遺体を覆った。手向ける花もなかった。墓標代わりのひと回り大きな石を最後に乗せ、膝を突いて黙礼した。
「気が済んだ?」
背中が受けるリリィの無感情な声。「済んでねぇよ!」、ハルは激語を上げた。
「……でも……死んだ人間は二度と生き返らねぇんだ。いくら後悔してもよ」
丸まった背中が震える。
「あたいが悪かったよ……何もかもおめぇに任せきりだった。バジリスクを狩りたいって言いだしたのもあたいだ。おめぇの言うとおり、あたいが殺したようなもんさ……」
ハルは積んだ石に手を掛けた。
「すまねぇ……」
涙が乾いた石を潤す。だがそのしずくに、無機質なかけらを肉に戻す力はなかった。
泣き崩れるハル。その涙が枯れるまで、リリィは傍らで見守り続けた。




