5.討伐 (1)
案内はできない、作戦の立案も無理……なハルだったが、さすがにこのあたりのガイドは手慣れた様子だった。日の光も乏しい森のけもの道を、彼女は迷うことなく進んだ。やがて前方が明るくなり、ふたりは東西に走る街道に出た。その道を少し西に戻り、日が落ちる前、目指す宿場町・キシュルに到着した。
山向こうのマチャルテ同様、キシュルは賑やかな街だった。規模はむしろ、こちらの方がずっと大きかった。
その街で、リリィは手頃な宿屋に部屋を確保した。高い宿ではなかったが、金を出してよそに泊まる経験自体初めてのハルは興奮し、宿の中を駆けずり回ったり、寝具の上で飛び跳ねたりしてリリィを閉口させた。
リリィは宿屋の主人に、バジリスクの生息域まで道案内できる者がいるか尋ねた。だが彼はかぶりを振った。そんな命知らずがいるかと箸にも棒にもかからなかった。
詳しく尋ねると、昔は一攫千金を狙う狩人が、この街を拠点に北を目指すことも珍しくなかったようだった。豪族の中には、兵を組織して挑む者もいた。だが誰ひとりとして成功せず、犠牲者の数だけが積み上がった。道案内を請け負った街の住民にも帰らぬ者が多く出た。そんな話が広まるにつれ、挑戦者は減り、やがていなくなった。
一泊した翌日、リリィとハルは駅を訪ねた。
駅には様々な機能がある。乗合馬車の発着はもちろん、旅に必要な装備や携行食料の販売、食事処や宿屋の紹介。さらには馬など家畜の貸し出しから護衛の斡旋まで、街により規模の差はあれ、旅人が求めるサービスは大抵そろった。道案内もそのひとつだが、そこでもバジリスク討伐のガイドは断られた。リリィは作戦の練り直しを強いられた。
「可愛いわね」
そんな彼女が、店先につながれた一頭のロバを見つけた。芥子色の体に白い脚。ボサボサのたてがみ。だらしなく垂れる尻尾……どこが可愛いんだ?とハルは思ったが、体は丈夫そうだし、従順だ。リリィが首を撫でると、人懐っこく頬を摺り寄せてくる。
「そいつなら一日千五百ソリタ、保証金一万ソリタだ」
店の若旦那が面倒くさそうに言った。保証金は、無事に家畜を戻せば返ってくる金だ。「ひえー、高っ」、ハルが目をむいた。リリィは相変わらずお気に入りなのか、自分の唾液を付けた指を舐めさせていた。
「この子にするわ」
ロバは馬ほど大きくはないが、女子供程度の体重であればひとりは乗れるし、乗らないなら荷物の運搬に使える。岩場や急斜面など険しい道もお手のもの。リリィは金具屋で店にあった鋼の水筒二十本を全て買い占め、ハルに紐でつながせロバに乗せた。そして北を目指し出発した。アーチャーの村の者と遭遇するのを避けるため、ふたりは街道から一本東の脇道を進んだ。
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