4.策と無策
人目を避け、ふたりは林の小径を南に下った。東国最初の宿場町、キシュルに向かうためだ。
本来、リリィはその騒がしい街に寄りたくなかった。バジリスクの生息域は北。キシュルとは逆方向だったからだ。だが、やむに止まれぬ事情があった。
※
「獲物のいる場所には案内できるんでしょうね」
もう一度川の水で顔を洗うハルにリリィは問うた。不毛の山中、滅多にお目にかかれない生物を探してさまようのは無謀だ。水や食料が尽きればそれは死を意味する。そんなことを考えないはずもないだろうから、当然心当たりがあるのだろうと尋ねたのだが、ハルの答えはリリィを唖然とさせるものだった。
「できねぇ。っつーかどこにいるか知らねぇし」
ブルブルを頭を振る。しぶきがかかり、リリィが顔をしかめるが、ハルは知らん顔だ。いやそんなことより、まだ誰も狩ったことのない獲物の生息場所すら知らず、『狩る』と大見えを切る根性に恐れ入る。
「……仕方ないわね。一度キシュルに行きましょう。情報を集めるか、道案内できる者を雇いたいわ。驢馬も借りましょう」
「おお、そうだな。おめぇ段取りいいな!」
あなたが悪すぎるんでしょ……出掛かったセリフをリリィは吞み込んだ。
「しかしよ、人を雇うとかロバを借りるとか、金はあるんか?」
「あるわよ」、とリリィが答えると、ハルは水気の残る顔を輝かせた。
「マジかよ!金持ちだな!いいダチができたぜ!」
リリィは思った。
彼女とは、出逢ってまだ半日も経っていない。そんな自分が友達呼ばわりされる。くすぐったいが、悪い気もしない。考えてみれば生まれてこの方、自分は誰かに『友達』と呼ばれたことがなかった。この屈託のない少女は、自分の初めての友達になるのだろうか。
しかし一方で、バジリスク狩りという前代未聞の仕事をこの少女と完遂できるのかと言う不安もよぎる。
「一応訊くけど……」
「なんだよ?」
「策はあるの?」
「サク?」
「バジリスクを仕留める、その作戦よ」
「ねぇ」、ハルは即答した。
「ない?」
「ねぇよ。っつーか見たこともねぇ怪物を狩る作戦なんか考えられっかよ」
リリィは額に手を当てた。自分とこの少女、手持ちの駒はこれだけだ。彼女の正確無比な射撃と、三本同時に番えて放つ曲芸撃ちは称賛に値する。ただ手にしている弓は小さく、貫通力には期待できない。その心もとない遠距離攻撃力と、自分の近接格闘能力。ひと睨みで相手を石にするという魔物と、それで対峙できるのか。
「あたいダメなんだ。『考える』ってヤツ。脳ミソが言うこと聞かなくなるんだ」
作戦面で頼れることはこの少女にはない。あきらめたリリィは思案を開始した。




