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召喚士の休日  作者: ittpg(三崎 まき)
第3話 召喚士の休日
40/228

8.皆殺しの宴 (2) ☆


 ※


 目を付けていた場所のパーサンは、大方採り切ってしまった。この冬はもう生えないだろう。だが今日の料理には十分だし、余った分は、町で売れば金になる。腕に掛けたかごの中を確認し、リリィは戻ることにした。


 前方、森が開けた。小屋の周り、二十ルーテほどの範囲の木はあらかた切り倒してしまった。さすがにやり過ぎだったか、リリィは自嘲しながら森を抜けようとした。しかしその瞬間、彼女の足が止まった。



「あぁ?あの娘はどこだ?」


「!!……」

 あり得ない男の声。しかも大勢。まずい!リリィはかごを捨てた。背中のロッドを抜き、駆け出す。


(アレス!……)



挿絵(By みてみん)


「お嬢ちゃ~ん、捜したよ~ぉ」

「!!」


 小屋の前に居並ぶ男たち。三十……いや四十人はいるか。風体から、野盗の集団だとすぐに悟った。


「アレス!」

 開け放たれたままの扉から、白髪をつかまれ老人が引きずり出される。


「久しぶりだな、リリィ……って名前だったか」

 忘れもしない、おぞましい声。フードをかぶり、マスクで顔を覆った異形。集団の中央に立つ男は、因縁の相手だった。あの、山あいの街道上の出来事から半年。もう、自分は死んだと思われていると考えていた。だがそうでないことは、今この現実が物語っていた。


「本当にしつこいわね」

 ロッドの先端のわずかな動きに脅しの声が飛ぶ。

「おっと、抵抗するとこのジジイの命はないぜ」

 言ったのは小柄な男。体格に似合わぬ大型のブレードをアレスに突き付けている。あれなら、それなりの腕力の者であれば一撃で老人の頸を刎ねることもできよう。

 そして忘れられるわけはなかった。あの夜……激痛に苦悶しながら見上げた時、視界の中で斧を握っていた大男。自分を踏みつけ、腕を引きちぎろうとした光景は脳裏に焼き付いている。その憎むべき男がアレスの髪をつかんでいる。


「ワシに構うなリリィ!」

「黙れジジイ!」

 ブレードの男が蹴りを入れる。リリィが唇を噛む。

「武器を捨てろ」

 マスクの奥からくぐもった、それでいてドスの効いた声が響く。いつしか、ざわついていた野盗どもは静まり返っていた。リリィはロッドを側方に投げた。腰の剣も、同様に抜かぬまま捨てた。

「せっかくだから、そこで裸になってもらおうか」

 ヒォーオ、野盗どもが囃し立てる。誰もが固唾を飲んだ。リリィが胸元に手を遣った。紐を解くと、左腕一本でローブを脱ぎ捨てる。色彩の乏しい冬の森に、愛らしい民族衣装が映え浮かぶ。鮮やかな刺繍の帯で締められた腰。強調される純白の布の盛り上がり。男たちは色めきだった。


挿絵(By みてみん)


「下着から脱いでいいかしら?」

「物分かりがいいな」

「股開く気満々じゃねぇか!」

「片腕だから、上手く脱げなくて悪いわね」

 腰を前に折り、衣装の裾を上げる。下着に手をかけ、降ろすような仕草をする。その瞬間。


「うわッ!」

 飛び出した物影にブレードの男が怯んだ。

「犬か!」

 別の男が剣で切りつけた。

「エウロペ!!」

 刹那、屈んだままのリリィの身体が側方に飛んだ。伸びた左腕が一閃する。

「ヒッ!」

 頓狂な声を上げた男の視線の先。アレスをつかんでいた大男の頭部がなくなっていた。切断された首から鮮血が吹き上がった。下着を脱ぐ仕草と、丈の長い下草で偽装したリリィが、捨てていた剣を抜き、投げつけたのだ。恐るべき切れ味のその長剣は、回転しながら大男の太い首を造作もなく切断した。

「お、おのれ……!」

 エウロペの白い体は草むらに横倒しになり、ピクピクと痙攣するだけになった。リリィの表情が憤怒に変わった。


「うおおおおおおおおおおおおーーーッ!」


 雄叫びを上げ、リリィは突進した。左腕にはロッド。派手な攻撃はもちろん囮だ。居並ぶ野盗どもの注意を自分に集めることで、アレスを危険から逃すためだった。

「矢を!……」

「近すぎ……」

 言葉が終わる間もなく、弓や弩弓を携えた数人が吹き飛んだ。たった一度、リリィがロッドを薙いだだけだった。打たれた者たちは、あり得ない角度で胴を折っていた。密集していたことが仇となった。

「畜生!」

「くたばれッ!!」

 残った男たちは、剣やブレード、ダガー、様々な刃物でリリィに襲い掛かった。だが、間合いが違い過ぎた。多くは、その(やいば)をリリィに届ける手前で打ち倒された。運よく懐に飛び込めても、左腕一本のリリィに敵わなかった。剣はロッドで受け止められ、はたき落とされた。丸腰になれば、もう餌食だ。

「グワアアッ!」

「ウゲェェッ!」

 断末魔の叫びが途切れることなく続いた。静寂が戻った時、草むらに立つ人影はひとつになっていた。


「さあ、残ってるのはあなただけね」

「ひいッ!」

 マスクを落とし、フードも捲れて焼けただれた顔を晒す男は、素っ頓狂な悲鳴を上げた。震える膝を不格好に開き、何とか立位を保っていた。その両脚のあいだに、リリィはロッドを突き立てる。


「……()()()が好きな股間のモノは、潰してしまわないとね」

「たち……けて……」

「助けるもんですか!」

 ドゴォッ!


「ギャガアゴグギギャギャギィ!」


 局部を潰され、のたうち回る男。

「ギャアグギゴゴゴッ!」

 地に倒れ、股間を押さえて悶絶する。

「ぶざまね」

「イギゴゴゴギャ!!」

 苦悶し続ける男をリリィは冷めた目で見下ろしていたが、やがて満足したのか。ロッドを振り上げ、そして下ろした。先端の武骨な金属の塊が、うつ伏せた男の背に突き刺さった。

「グゲッ!」

 心臓を潰され、男はピクッ、ピクッと二度痙攣し、そして動かなくなった。


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