8.皆殺しの宴 (1) ☆
年が明けたある日。
炭焼き窯の火を見ていたリリィに、アレスが思い出したように尋ねた。
「お前さん、誕生月はいつだね?」
「二の月よ」
「おお、来月じゃな。誕生月にはお祝いしてやろう」
東方で、誕生『日』を認識している者はほとんどいない。リリィも自分の誕生日を知らない。この地方では、誕生月の初日に宴を催すのが習わしだった。
「あ、ありがとう」
急な申し出に、リリィは困惑を振り解けぬまま応えた。生まれてからこれまで、誕生月を祝ってもらったことなどなかったからだ。
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その日、アレスは朝から町で揃えた食材を前に腕を振るった。
リリィは森に来てから初めて、母の形見である民族衣装を身に着けた。晴れの日の衣装だ。東方では珍しいそのいで立ちに、アレスは目を奪われた。どんよりとした雲の下、白を基調とした衣装はひときわ輝いていた。ただ、ひとつだけ……かつて、あの少年に貰った薄絹の帯飾りは着けなかった。彼を否定するつもりはなかった。純粋に、今の自分にはふさわしくないと思ったからだ。
その衣装の上からローブを羽織り、リリィは森に入った。パーサンという、冬にしか取れないキノコを採りに行くためだ。香りが高く、肉にまぶすと味が引き立つが、広大なマチャの森でもなかなかお目にかかれない。無論、今から探すようでは何日後に手に入れられるかわからない。リリィはこれまでの散策で、生育地を何箇所か見付けていた。
小屋では、火に掛けられた鍋がことことと軽快な拍子を刻んでいた。湯気が匂い立ち、足元で伏せてくつろぐエウロペも御馳走の予感に舌なめずりしていた。
だが、その時……
エウロペの耳がピクリと動いた。刹那、低くくぐもった唸り声。
(!……)
アレスの手が止まった。眉が歪む。エウロペがこの反応をするのは、危急の事態だけだ。
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