5.休日の始まり (1)
ウオォォーン……
「どうした、エウロペ?どこへ行く?」
狩りの最中、駆けだした相棒に老人はうろたえた。射落とした獲物はそっちじゃない。
(なんか様子がおかしかったが……)
粗末な衣服にベスト。森の住民としては一般的ないで立ちの彼は、深い下生えを掻き分け、愛犬を追った。暴走した相棒は、ワンワンと同じ場所で主を呼ぶ。
(川原の方じゃな……)
息を切らせ、老体は草を掻き分ける。水流が岩を叩く音が大きくなる。白い大型犬は、水辺の岩陰に首を突っ込んでいた。川砂に足を取られながら駆け寄り、相棒と岩の隙間を覗き込む。
「おおお、なんということじゃ!」
……………
※
「リリィ」
……声が聞こえる。
自分を呼ぶ声だ。聞き覚えがある。
「リリィ」
目を開ける気にならない。
身体がひどくだるい。動かそうにも動かない。そもそも意識すらはっきりしない。茫漠とした闇をさまよっている。
「聞こえるか、リリィ」
三度声がする。
「ごめんなさい。体が痛くて、寒くて……頭もぼうっとする」
「無理もない」
少し思考が戻った。声の主に思い当たる。
「私、あなたと契約した」
「そうだ。そして今日は、お別れのあいさつに来た」
『お別れ』……その言葉はリリィをひどく不安にさせた。
「お別れ?もう会えないの?」
「そうだな。会えるやもしれぬ。だがその時は、本当の別れとなるだろう」
「そんなの寂しい。どこに行っちゃうの?」
「どこにもいかぬ。近くにいる。ただ、離れ離れになってしまった」
「そんなのいや!」
「では……ひとつの道を示そう。リリィ、新たな契約を結ぶのだ」
「新たな契約……それは、あなたと?」
「そうかも知れぬ。そうでないかも知れぬ」
「あなたとでなければ、誰となの?」
「それもわからぬ。ただ、西へ向かえ」
以前にも同じことを言われたような気がした。
「私……東に用事があって。行く途中なの」
「構わん。用があるならそれを済ませてからでいい。西へ行くのだ。西の、大きな国。人の王が統べるその地に、お前の問いの答えがある」
「わかったわ」
「そろそろお別れだ。リリィ……さらばだ。今まで楽しかったぞ」
「待って!私を置いて行かないで!」
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