2.酒場の異形
「魔導師?」
カウンターで酒を注いでいた店主が、手を止めて聞き返した。正面に立つ異形が、常連客ばかりのまばらな店内の空気を一変させた。
「そうだ。歳のころ十四、五の娘で、手に長いロッドを持っている」
酔客の目を集めるその男は漆黒のマント姿で、顔をフードとマスクで覆っていた。そのフードの奥で、わずかに覗いた眼光が血走っている。
ただ、対するマスターも気おされてはいない。街道沿いの酒場。善良な客ばかりなら商売も楽だが、そうは問屋が卸さぬ。口論からはては刃傷沙汰まで、トラブルは日常茶飯事だ。男が尋ねる人物も、そんなトラブルメーカーのひとりだった。
「ああ、それなら……」
マスターが、男のそばの椅子を視線で指す。
「……五日ほど前、そこに座ってたよ」
男が首を回す。椅子とテーブルは新調され、床には修繕の跡が残っていた。正確に言えばその尋ね人がそこに腰掛けていたわけではないが、男の関心を誘うには十分だろう。
「何とかって言うネクロマンサーの消息を訪ねてたから、町の北東に住み着いた魔導師のことを教えておいたがね。それから帰って来てないから、大方そのまま東に行ったんじゃないかな」
「そうか……」
表情はわからない。声も無感情だ。まるでつかみどころのない男だ。影と会話しているのかとさえマスターは思った。
男は振り返り、礼も言わず出ていった。暗黒をまとう姿は、すぐさま夜陰に紛れ、消えていった。




