4.薬師の少女 (1) ☆
彼女の話で、エスは大方の事情を理解した。
疲労と空腹で倒れてしまった彼を、彼女――ミカが発見した。彼女はエスを小屋に運び、介抱した。昨日のことだ。ミカは彼と同じ十六歳。三年ほど前に親を亡くし、以来一人暮らし。ここで薬を作っては売って生計を立てているとのこと。きのうも薬草を求め北方に遠征し、戻ってきたところだった。男みたいな名前だなとエスは思ったが、その名のとおり、少年のような、中性的なルックスだった。
エスがわずかに水分を取れたので、彼女は蜜と、蜂の幼虫を潰した汁で彼に栄養を与えた。そしてキナを処方した。意識のない彼を運ぶのは相当骨が折れたらしい。倒れた場所が小屋の近くだったのが幸いした。そうでなければ見捨てられていた。重たかったから結構体重あると思ってキナを多めにしてしまったとネチネチ言われたが、命の恩人に言い返す言葉はなかった。小屋の位置は、召喚士の村の者が『南の町』と呼んでいる集落の近く。したがってエスは、村から二十カロルーテ近く南に歩いていたことになる。
彼は意識が戻るまで、うわごとで何度も『彼女』の名前を呼んでいた。「リリィって誰だよ?フラれた女の名か?みっともないな」とミカに蔑まれた。「フラれた」、それ以上に適切な表現を彼は思いつかなかった。一命を取り留めたはいいが、それは同時に、みじめで無様な境遇に引き戻されることをも意味していた。
ミカの小屋は小さなものだった。壁は棚だらけで、大小さまざまな瓶やビンが立錐の余地なく並んでいた。床は半分土間で、隅の方に木蓋が伏せてあった。穴を掘って何か……薬か食料を保存しているのだろう。
そして、小屋にはありとあらゆる薬草の臭気が充満していた。息が詰まりそうだった。それひとつひとつではどうとも思わない臭いでも、これだけ混ざると頭痛がする。ミカがよく平気だなと彼は感心した。
ミカがスープと粥を作った。エスは体を起こし、それをすすった。食べているあいだ、ミカは土間にしゃがみ込み、二、三種類の薬を同時に作っていた。なかなかの手際だった。
食事の片付けが終わると、ミカは小屋を出ていった。また薬草を採りに行ったと思われた。夕刻に戻ってくると火を起こし、粥と干し肉の簡単な食事をエスに作った。そして床に布を敷いて寝床の準備を始めた。
「ここで寝てていいの?」
エスが聞くと、彼女は「いま叩き出してもまたどうせ行き倒れるだろ」と答えた。そして腰のダガーをバンバンと叩いた。
「変なことしてみろ!刺し殺すからな!」
妙に意識してしまい、エスはなかなか寝付けなかったが、まだ疲労が残っているのか、それでもいつしか意識は途絶えた。
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