11.秘密の部屋 ☆
王城内にある、王立図書館。そこは人類が書きとめた全叡智を集めた場所である。そしてその叡智は、今なお学者たちによってページを重ねている。
まばらなランプの明かりに浮かび上がる薄暗い空間。本を読むには近目が心配になる暗さだが、リリィはその落ち着いた照明が好きだった。
王城の中層階全体を占める広間には、書架がずらりと並んでいた。充満する空気が木と紙と埃、そしてわずかにカビっぽい匂いを漂わせる。窓がないため、壁際にも隙間なく書架が据え付けられている。
そしてその中にぎっしりと詰まった書籍の背表紙。それをリリィは端から眺めてゆく。気になるものがあれば手に取り、ページをめくる。書架は彼女の背丈の倍ほどもあり、上段の方は梯子がないと届かない。眼鏡がなければ、背表紙の文字も読めない。
昼間の図書館にはそこそこ利用者がいる。学者やその門弟たち。一部のエリアでは、朽ちた古書を書き写す作業を行っている。夕方までは司書もおり、エンベロペ内であれば持ち出し可能な書籍もある。
だが……
夜にそこに立ち入る者はほとんどいない。特に深夜であれば。ただし、ひとりの例外を除いて。
「こんばんは、お嬢ちゃん」
「あら、こんばんわ」
冷たい王城の間に響く杖の音で、誰がやって来たかは声を聞かなくてもわかる。ギュスタンダーだ。リリィは目を上げた。緑褐色のローブが描く丸まった背中が、書架のあいだの扉を前にして立つ。金細工で飾った、両開きの立派な扉だ。彼は図書館にやってくると、この扉の向こうに消えてゆく。鍵は自分で開けている。曰く、枢機院のメンバーしか立ち入れない場所だそうだ。ザヅツにも聞いたことがあるが、当然彼もその部屋に入ったことはない。
そしてリリィは、自分が真に求めるものがそこにあるのではと考え始めていた。なぜなら読める本をいくら調べても、探し求める核心にたどり着けなかったからだ。
彼の背中越しに部屋を覗いたこともあった。そこは同じように書架と書籍が並ぶ空間だった。彼自身に直接聞いたこともあるが、「王国の政治に関する機密の書類なんかだ」とお茶を濁された。それが真実だとリリィには思えなかった。荒っぽい手段も考えた。ただ読める蔵書はまだ半分以上残っている。それを調べてからでも遅くない。リリィの図書館通いは続いた。




