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召喚士の休日  作者: ittpg(三崎 まき)
第9話 任務
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7.酷暑 ☆

挿絵(By みてみん)


「はあ、はあ……」

 ベッドに横たわるシールは、苦しそうに顔を歪め口で息をする。愛らしい唇は割れ、頬は炙ったように紅潮している。濡らした手ぬぐいを額に当てても、たちまち茹で上がる。


「シール……可哀想に、代わってやりてぇよ……」

 ベッドのそばでハルが膝を突く。彼女は顔をしかめる。握った手は、人体の一部とは思えないほどの熱を帯びていた。横でスツールに腰掛けるリリィも、何もできない悔しさに唇を噛んでいた。



 ()の月に入っても、王都では焼けるような日が続いた。慣れない土地での暮らしに、東国とは比べものにならない厳しい暑さ。加えて任務の緊張と疲労が祟ったのか、シールが体調を崩してしまった。発熱し、物も食べられず、やつれてゆく彼女を心配したハルは、道場を休んで看病すると言い張った。自分が看るとリリィが言っても譲らなかった。


 それには理由があった。

 ハルは疑っていたのだ。シールが寝込んだのは、リリィが中隊の任務や魔術の練習でシールに無理をさせているからではないか……と。そのためハルとリリィとのあいだは険悪な雰囲気になったが、エレナが取り入って収めた。彼女もシールの面倒を見るということで、ハルは引き下がった。

 エレナが知り合いの医者を呼び、シールを診させた。深刻な病気や流行り病ではなく、疲労の蓄積に夏バテが加わった結果だろうとのことだった。屋根が焼け、暑くなりがちな三階の部屋は良くないとのことで、エレナは二階か一階に部屋を移せばと提案したが、今度はリリィが今の部屋が良いと譲らず、またハルと衝突した。ここでもエレナが取り成した。シールをしばらくのあいだ、一階のエレナの部屋に移すことにしたのだ。彼女は寡婦で、一人暮らしだった。



 ※


 八の月を半ばも過ぎ、依然リリィ中隊に次の呼び声はかからなかった。

 もちろん、ザヅツも彼女らを干しているわけではなかった。

 王国から見れば、正規軍と異なり、傭兵部隊は維持費がほとんどかからない。必要な時に召集すれば、それ以外の期間は放置で良い。任務に必要な物資さえ与えれば、平時のコストはほぼゼロだ。訓練も不要。練度不足で損害が出れば、また集めればよい。

 無論、傭兵部隊とは言えみだりに死傷者を出すのは王国の沽券にかかわる。そうならないよう差配するのがザヅツの仕事だ。彼はリリィ中隊のほかにも、五十以上もの部隊を管理・監督していた。彼女らのような中隊規模の部隊は彼の配下では最大で、中には一名で構成する隊もあった。人員にすれば、合計で千人を超す。そのひとつひとつについて特性を知り、能力を把握し、情報を集め、成功裏に遂行できる適切な任務を割り振る。それが彼の責務だった。


 そのため彼は多忙だった。リリィたちに声がかからなかったのは、たまたま彼女たちに与える良い任務がなかったからだ。ケスランは良かったが、彼の部下の中には、仕事がなく収入面で不満を漏らす者も出始めた。そう言った者たちに突き上げられ、ケスランはザヅツに掛け合ったが、すぐに発動できる作戦はやはりなく、ザヅツも申し訳なさそうにしていた。


 シールの容体は落ち着いたが、暑さは去らず、やつれてなかなか回復しなかった。道場のフローラが心配し、足しげく見舞いにやってきた。彼女には子供がおらず、シールを娘か妹のように可愛がっていた。食べやすく、栄養価の高い新鮮な果物をよく持って来てくれた。彼女自身体が丈夫でなく、元来出歩くのが嫌いだったにもかかわらず、猛暑の中、毎日のように見舞いに行く姿にナカは驚いていた。

 リリィとハルは、シールを国に帰すことも考えた。ハルはすぐにでもそうすべきだと主張した。一方、リリィは消極的だった。またふたりは口論になった。ただいずれにせよ、今の健康状態で東国までの長旅に耐えられるとは思えなかった。結局、王都で様子を見るしかなかった。



 そうして初任務からひと月が経った八の月の終わり……ザヅツはついに、リリィ中隊の次の作戦を決断した。展開するのは南部の街・カムジャン。そこでふたつのならず者集団が、合同で大規模な賭場を開催するとの情報をザヅツは得た。その現場を急襲するのが今回の任務(ミッション)だ。リリィはシールの体調を考慮し、ハルとふたりで参加することにした。

 ザヅツの元に集まったリリィとケスランは、今回も擬装が重要と考えた。王都からの進軍を察知され、賭場の開催をキャンセルされては元も子もないからだ。また正規軍との連携も欠かせなかった。リリィの提案はこうだった。まずリリィたちはカムジャンではなく、そこから東に離れた町・ルースに向かう。王都からの所要時間は一日だ。その町は、かつてのケスランたちの根城だった。そこで逗留すると見せかけ、一般人に紛れてカムジャンに入る。ルースからカムジャンまでも一日弱の行程だ。

 そして気付かれないよう賭場を包囲。あとは正規軍とリリィで()()のガサ入れを行う。決行日は()の月の初日。リリィが踏み込む時点で何が起こるか、火を見るより明らかだったが、ケスランは今回はあきらめていた。ザヅツも同様だった。彼の頭にはギュスタンダーの助言があった。必要物資を確認し、三人は解散した。


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